【無料お試し読み】大前研一ビジネスジャーナルNo.4 「迫り来る危機をいかに乗り越えるか」

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※書籍版は下記リンクよりご覧ください。

大前研一総監修によるビジネスジャーナル第4弾

今回のテーマは"迫り来る危機"。

「2015年のリスク」と「日本のエネルギー戦略」の2本立てです。

今回もビジネスを変革するビジネスパーソンへ向けて、ファクトに基づく分析をお届けします。


『大前研一ビジネスジャーナルNo.4 「迫り来る危機をいかに乗り越えるか」 』Seminar1-Chapter1より


日欧は低迷、世界のホームレス・マネーが米国へ

●世界の経済成長率

 最初に、2014年の世界の経済動向を振り返ってみましょう。図-1のグラフを見ていただきたい。先進国の中で、米国の成長率が一番高く、日本が一番低い。20年間見てきて、この状況はあまり変わりません。新興国その他を見ると、4%以上成長している国もありますね。中国は成長のスピードが衰えてきたとは言え、まだ7%台を保っています。横軸に、世界全体の平均を示してあります。2013年の成長が3.27%(点線)だったのに対し、2014年は3.31%(実線)と、2013年よりも2014年の方が成長率が上がっています。ですから世界経済全体を見ると、この世の終わりという状況ではないのです。

 ●量的緩和に踏み切った日本と欧州

 次に、主要国の政策金利の推移を見てみましょう(図-2)。日本も欧州も米国もゼロにへばり付いています。

 日銀は、2014年10月に行った追加金融緩和策、通称バズーカ2で効果が出なかったので、このまましばらくゼロ金利を維持すると考えられます。右側のグラフは、中央銀行の総資産の対GDP比を表しています。この比率が60%に達した国というのは、今までありません。日本は前人未到の領域に入っているということです。米国のFRB(連邦準備制度理事会)もリーマンショックの後、国債を買うなど「禁じ手」とされてきたQE(量的金融緩和策)を3回行いましたが、それでもまだ26%です。今の日銀の金融政策がいかに異常か、このグラフを見るとよく分かります。

 欧州は、「ジャパナイゼーション」、日本型の長期不況に突入することを非常におそれています。欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は、欧州流のQEに踏み切るでしょう。今困っているギリシャ、ポルトガル、スペイン、イタリアあたりの国債を買って、市中にお金を出すということをやると思います(編集部注:2015年1月、ECBはQEを発表。月額600億ユーロの国債購入を決定)。


●世界のお金が米国に集中する

 一方米国では、FRBのイエレン議長がQE3(2012年9月に開始した量的緩和策の第3弾)の終焉を宣言。今後政策金利の引き上げに入っていくという方針を示しました。今、利上げができるほど経済が好調な国は多くありません。ドルが強くなっていることに加え、原油価格が下がっていることから、米経済はさらに上向いていくでしょう。したがってこれから先、世界のお金は米国に流れると考えられます。

 ただこのお金は、実は世界経済を駆動するものにはならない。米国の一極繁栄で、お金は新興国をするっと通り抜けて、米国に戻っていくという流れになります。投資先を探して世界をさまよっているホームレス・マネーは、QE3後に米国から世界へ流出(ドルキャリー)したのですが、利上げによってドルが強くなると、そのお金が米国に帰っていくことになります(図-3)。

 つまり、他の国があまり潤うことなく、米国だけが潤うということです。米国の一極集中については、図-4がすべてを物語っています。米ドルを軸に、世界の通貨がどのように動いたかを示すグラフです。2013年12月と2014年11月のレートを比較すると、ほとんどすべての国で米ドルに対してマイナスになっています。歴史的に見れば、これまでも、ドルと円が強くなったとか、イタリアのリラが弱くなるとか、いろいろありました。でも、米ドルだけが強くなり、それ以外の通貨がほぼ全部マイナスになるというのは、きわめて珍しいことです。

 ロシアの騰落率がずば抜けているのは特殊な事情です。ウクライナ問題(Chapter2参照)で制裁を受けていることに加え、原油価格下落の影響で、ロシアのルーブルが非常に弱くなっています。

 日本円も大幅に下がっています。2012年、安倍首相の就任時と、2014年の総選挙公示日を比較すると、30%下落しています。それからスウェーデンも、政治情勢が乱れているために通貨価値が下がっています。アルゼンチンが弱くなっているのは、デフォルト(債務不履行)問題で米国からにらまれているためです。インドとインドネシアだけが辛うじてプラスの数字になっていますが、これはいわゆる「ご祝儀相場」、新しい指導者が出てきた影響によるものです。


株価が上がっても、日本の景気はよくならない

●緩和マネーが株式市場に流入

 次に株式市場の推移を見てみましょう。日本は米国のダウに追い付いて、2014年12月、日経平均株価が1万8000円台を記録しました。BRICs※1ではインドの伸びが大きいです。アジアではタイが伸びています。タイやエジプトのような国では、軍事政権になると株価が安定するという皮肉な状況があります。

 日本の株価が上がっている理由は明らかです。日銀が、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)、つまりわれわれの年金ファンドが保有する国債のうち30兆円を買い取り、その30兆円で国内の株を買うよう要求したわけです。ここでどういう買い方をするかというと、インデックス買い※2です。たとえば日経平均を構成する225銘柄を買うと、その225銘柄は高くなる。それらを選択的に買うので、日経平均は上がりますが、全体の株価が上がっているわけではないのです。こういう買い方をすると、効率よく株価を上げることができます。

※1 BRICs:ブラジル、ロシア、インド、中国の4か国の総称。これに南アフリカを加えて5か国を指す場合もある。

※2 インデックス買い:日経平均株価やTOPIXなど、株式市場の指標に連動するように株を買うこと。

●株価が上がって、日本の家計が潤うことはない

 ここに安倍首相の大きな勘違いがあります。2014年12月、総選挙後の記者会見で、安倍首相は「株価が上がって景気が上向き、皆さんの実入りもよくなる」というようなことを言いましたが、彼は日本の経済を知らない。多くの日本人は株を持っていません。株を保有しているのは、わずか15%にすぎないのです。

 株価が上がって家計が潤うというのは、米国式の考え方です。米国では大半の人が株を持っています。しかも資産に占める株式の割合が、日本よりはるかに大きい。定期預金を持っている人は少ないのです。だから米国では、株価が上がれば景気がよくなる。日本ではそういうことは起こりません。アベノミクスを支持する経済学者ポール・クルーグマン※3は、日本経済と米経済の本質的な違いさえ分かっていない。株価が上がって日本の景気がよくなることはありません。

※3 ポール・クルーグマン:ノーベル経済学賞を受賞した米国の経済学者。アベノミクスを支持しているが、増税には慎重であるべきという立場。




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