【無料お試し読み】大前研一ビジネスジャーナル No.7(バルト三国・ベラルーシの研究~今、日本が学ぶべき“小国家戦略”~)

大前研一総監修ビジネスジャーナル第7弾

今回は、『バルト三国・ベラルーシの研究~今、日本が学ぶべき“小国家戦略”~』と題し、

その歴史的背景や地政学的ポジションを解説、

現在各国が打ち出している産業の強みや外交戦略から、

日本にとって参考となる“小国家戦略”を見ていきます。

小国でありながら、なぜバルト・ベラルーシは世界に存在感を打ち出すことができるのか?

大前氏によるインタビュー/セミナー/視察レポートを通して解説します。

Chapter1 バルト三国とベラルーシの現在、過去、未来

2つの巨大勢力に挟まれた小国

●バルト三国に学ぶ、日本の方向性

 バルト三国とは、その名の通りバルト海沿岸に位置するエストニア、ラトビア、リトアニアの3ヵ国を指す総称です。その南にベラルーシがありますね(図-1)。

 バルト三国とベラルーシは、優秀な人材が低コストで確保でき、マルチリンガルも多く、欧米マネーが流入しているという利点を持つ一方、ロシアとの政治的問題がビジネス上のリスクとなる可能性があります。また無国籍ロシア系住民の問題や、欧米マネー流入によるバブルの心配も抱えています。

 欧州連合(EU)とロシアの間に位置するこれらの国々は、小国であるがゆえに、これまで周辺諸国からの侵略や支配を繰り返し受けてきました。1940~90年代にかけてソビエト連邦(ソ連)に併合・編入されていましたが、1991年の独立後はロシアと良好な関係を築いています。ソ連時代には国ごとに産業が細分化されていて、バルト三国とベラルーシはITや流通を担当していました。そのため独立後は、これらの産業を自分たちの得意技として国を挙げて発展させ、世界から注目を集めているというわけです。これが、彼らがこの20年に間取ってきた戦略です。

 この4ヵ国の産業・外交における方針や態度は、同じように周辺国との国境問題を抱え、かつ資源の乏しい国である日本にとって、いろいろと参考になる部分も多いのではないかと思います。


●他国の支配とソ連への併合・編入を経て、バルト三国はEUに、ベラルーシはCISに加盟

 この地域の地理や歴史を理解しておくと、今の世界が見えやすくなりますので、ぜひ、皆さんにも関心を持っていただきたいと思います(図-2)。

 まず、最も北に位置するのがエストニアですが、人口は約131万人(2014年)と4ヵ国のうちで一番小さな国で、国土は日本の約9分の1しかありません。ソ連併合前にも、ドイツ騎士団に領有されたり、スウェーデン領になっていたという過去があります。独立後は、2004年にはEUと北大西洋条約機構(NATO)に加盟、2011年には通貨ユーロも導入しました。

 隣のラトビアは人口約219万人(2013年)、国土は日本の約6分の1とエストニアよりはやや大きい国です。こちらも、リトアニア・ポーランド領、スウェーデン領、ロシア領となった後にソ連に併合され、独立した後は世界貿易機関(WTO)、NATO、EUに加盟してきました。ユーロ導入は2014年です。

 リトアニアは、国土はラトビアと同じくらいですが、人口は約294万人(2014年)とバルト三国の中で最大です。13世紀から自治、またはポーランドとの同君連合を続けていましたが、ロシアによる支配とソ連への併合を経験し、独立後はエストニア、ラトビアと同様にEU、NATOに参加しました。ユーロは2015年1月に導入したばかりです。

 最後にベラルーシですが、国土は日本の約半分と結構大きいです。人口も約941万人(2013年)とバルト三国各国の倍以上の規模です。首都ミンスクには、独立国家共同体(CIS)の本部が設置されています。16世紀以降はロシアの支配下にあり、ソ連には自ら加わりました。ソ連崩壊後は、共和国宣言をするのですが、やはりロシアとの関係は不可欠だ、ということで同盟を結び、CISに加盟しました(図-3)。

 バルト三国とベラルーシはドイツ、ポーランド、北欧、ソ連・ロシアなどの支配を受けてきたため、今でもその影響が強く残っています。4ヵ国とも地理的にはとても近いのですが、その歴史は微妙に違っています。


●バルト三国は13~17世紀、ハンザ同盟として繁栄

 ご説明したように、同じ旧ソ連諸国でありながら各国の独立後を見ると、バルト三国はEUへ、ベラルーシはロシア側のCISへ加盟する、といった状況になっています。これには、バルト三国が中世から近世にかけてハンザ同盟の一員であったという背景があります。

 ハンザ同盟とは、13~17世紀にかけてバルト海沿岸の諸都市が結成した都市同盟で、北ドイツのリューベックやハンブルク、ブレーメンなどを中心に、この地域の貿易を独占することで繁栄しました。最盛期には約200の都市が加盟し、バルト海を一つの湖のようにして交易をしていたのです(図-4)。

 このハンザ同盟に加わっていたのが、現エストニアの5都市、現ラトビアの5都市、現リトアニアの2都市です。このような背景があり、バルト三国はソ連から独立した後、ハンザ同盟時代の空気が非常に強くなり、急激にこの地域との交流を深めているというわけです。


 ●ソ連に併合されたバルト三国は、激しい独立運動により自由を獲得

 バルト三国を見る上で欠かせないのが、ソ連・ロシアとの関係です(図-5)。バルト三国は、非常にロシアを恐れています。

 歴史を追って見ていくと、1914年に第一次世界大戦が勃発すると、ドイツとオスマントルコは欧州全体を敵に回して戦い、ロシアは防戦一方という状況になりました。結局、第一次大戦はドイツが敗戦して終わり、トルコの勢いが収まってきた1918年にバルト三国がそれぞれロシアからの独立を宣言。1921年に国際承認を受けて国際連盟に加盟しました。ところが1939年に独ソ不可侵条約が結ばれると、ドイツが入ってこないことをいいことにバルト三国にソ連の赤軍が駐留しはじめ、翌年には三国ともソ連に併合されてしまいました。バルト三国はいずれも小さな国なので、ドイツ軍が来ても赤軍が来ても防衛しにくかったのです。

 1941年のシベリアへの大量強制連行の後、ドイツ軍が侵攻して第二次世界大戦に突入するのですが、その後ドイツが劣勢になると、ソ連が再びバルト三国を占領します。また、バルト三国のそれぞれにできた共産党はソ連に逆らう“悪い共産党”だとされて、エストニアとラトビアの共産党指導部は粛清されてしまいました。

 それでも、バルト三国には“根っからのハンザ同盟、バルト海の商人”という意識があるので、ソ連に反旗を翻し、三国の国民が連帯してデモを開始しました(図-6)。最も有名かつ世界中の同情を集めたのは、「人間の鎖」と呼ばれるデモです。エストニアのタリンからリトアニアのビリニュスまで続く「バルトの道」と呼ばれる600キロの道路に沿って、バルト三国の約200万人が手をつないで人間の鎖を作り、“我々はソ連のタンクが来て全員ひき殺されても一歩もひかないぞ”と自由を要求したんですね。ソ連のゴルバチョフ大統領も、さすがに彼らをタンクでひいてしまうことはできず、結局これによってソ連の侵攻を防ぐことができました。

 その後、1991年には独立が承認され、その後3~4年かけてソ連軍が撤退し、独立した国家として自由の身を勝ち得たのです。

 こうした歴史がバルト三国の“いつまたロシアが攻めてくるか分からない”という恐怖心に繋がり、“EUやNATOに加盟してよかった”“何かあった場合は助けてほしい”という感覚に直結しているのだと思います。今では、欧州にとってバルト三国は重要なメンバーになっているので、もう心配することはないだろうと思いますが、彼らの中にはまだそういった感覚が根強く残っているようです。


●ソ連崩壊後、欧州・ユーラシア地域の勢力図は急速に変化

 図-7をご覧いただきたい。冷戦時代から現在までの欧州とユーラシアの勢力図ですが、これを見るとこの地域がどれくらい急速に変化したのかが分かります。

 1986年の時点では、欧州共同体(EC)よりもソ連のほうが大きく、両者の間に経済相互援助会議(COMECON)がありました。COMECONはソ連による経済統合体制ですが、経済的にはおかしな状態でした。ソ連に反旗を翻さないよう、例えば製品の生産であれば、部品の製造はチェコで、完成させるのはポーランドで、といったように、それぞれの国にばらばらに異なる産業を担わせ、どの国も自国だけでは完成品が製造できないようにしていたのです。産業がジグソーパズルのように分けられているので、経済がうまくいっているときはよかったのですが、東ドイツが抜けたことで全部崩壊し、1991年には解散してしまいました。

 1995年当時の図は、ソ連が崩壊してから4年後の状況ですが、欧州とロシアの間に東欧圏が出現しています。この東欧圏は、以前はソ連に入っていたけれど、もうソ連側には戻らないぞという国々で、バルト三国もこの時期は東欧圏に属しています。2014年になるとEUが28ヵ国と大幅に勢力を伸ばし、バルト三国もEU側に入りました。


●現在のロシアと旧ソ連諸国の関係

 続いて、現在のロシアと旧ソ連諸国の関係を見ていきましょう。図-8を見ると分かるように、バルト三国は親欧米派、ベラルーシは親ロシア派と、外交的には両極に位置しています。

 バルト三国はEU加盟国で、2015年初頭にはすべてユーロを導入しました(図-9)。一方ベラルーシがロシア寄りなのは、ロシアから輸入するガスの値段が、自国にとって非常に重要だからです。

 ロシアとEUとの間でどっちつかずのグルジアとウクライナは、もともとCISに入っていたのですが、脱退してEUと連合協定を結び、FTAを始めようとしました。それに対してロシアが激怒して、ウクライナとグルジアの農産物の輸入を禁止したのです。こういった背景もあり、グルジアとウクライナはいずれ正式にEUに加盟するでしょう。

 トルクメニスタンはCISに入ってはいますが、いち早く永世中立国を宣言して、“われ関せず”の立場を取っています。カザフスタン、アルメニア、キルギスタン、タジキスタンは、ロシアと軍事同盟だけは結んでいます(図-10)。ロシアと戦わないということが非常に重要ですから。このような情勢は、おそらくロシアの出方次第で毎年更新されていくと思います。


…続きは書籍版にてご覧ください!

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