【無料お試し読み】 治療ゼロの歯科医療をめざして

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心筋梗塞、動脈硬化、認知症、糖尿病、肺炎、ガンなどを引き起こし、やがて死をもたらす恐怖の感染症「歯周病」。

これまで根本治療が困難と言われてきた「歯周病」を根本的に治療する、世界に類を見ない画期的メソッド「トータルヘルスプログラム」を研究・開発した著者が、当メソッドの詳細を書籍上で初めて公開。同時に、現在の日本の歯科医療に潜む深刻な問題点と迫りくる危機、理想の歯科医療像について、著者ならではの鋭い視点で語ります。


 『治療ゼロの歯科医療をめざして』第1章より


笑顔で訪れる歯科医院

 みなさんは何のために歯医者さんへ行きますか? 多くの方が「もちろん、歯の治療のため」と答えるのではないでしょうか。また「歯医者さんは行きたいところですか?」と聞くと、おそらくほとんどの人が「行きたくない場所に決まっているじゃない」と答えることでしょう。

 この、みなさんにとって当たり前の答えが、当たり前でない国があることをご存じでしょうか。それは、フィンランドやスウェーデンといった北欧諸国です。北欧諸国では、歯医者さんは歯の治療のために行くところではありません。では、何をしに行くところなのか? 答えは、〝歯を治療しなくて済むように行くところ〟です。そして歯医者さんは、子どもからお年寄りまで〝みなが行きたいところ〟なのです。

 この〝歯を治療しなくて済むように行くところ〟という意味をすぐに飲み込めない方も多いかと思います。しかし、この考え方は北欧諸国では今や常識となっています。なぜなら、北欧諸国では、虫歯や歯周病といった歯や歯ぐきの病気にかかる人がほとんどおらず、歯医者さんは、そうした病気にかからないように、すなわち「予防」のために通うところになっているのが常識だからです。

 北欧諸国の人々は、生まれたときから定期的に歯医者さんに通って検査をし、虫歯や歯周病になりそうなリスクがあれば、それを事前に取り除く「予防」をしているため、歯の病気にかかりません。生まれてから死ぬまで、一生、歯の治療をしなくてよいのです。

 ですから、彼らにとって歯医者さんは日本のように〝行きたくないところ〟ではなく〝誰もが喜んで行きたいところ〟になっています。

 実際に、私が最初にフィンランドへ留学したとき目にした光景は今でも忘れられません。日本では、歯医者さんへ入っていく人の顔が一様に曇っているのに対し、フィンランドでは子どもも大人も、みなニコニコと笑顔で歯医者さんへ入って来るのです。そして笑顔で帰っていく。この光景は本当に衝撃的でした。

 そしてそのときから、フィンランドと日本の歯医者さんはいったい何が違うのだろう? 日本の歯科医院、歯科医療には何か根本的な問題があるのではないか? と真剣に考えるようになったのです。


ありえない! 「検査」「診断」のない医療

 現在、残念ながら日本の歯科医療には北欧諸国のような「予防」という概念はほとんどなく、「治療」が中心です。ほとんどの歯医者さんでは、ただ単に「削る」「詰める」「抜く」といった治療が行われています。虫歯ができてしまったから削る、穴があいてしまったから詰める、歯がだめになってしまったから抜く。歯科医師も患者さんも、それが当たり前だと思っています。

 しかし、これでは治療という名の応急処置でしかありません。本来であれば、穴があいた原因は何なのかをしっかり調べて、二度と穴があかないようにするにはどのような処置をすべきかを考えるべきであり、それが本当の医療です。ところが日本のほとんどの歯科医師は、初めての患者さんが来たらまず簡単なチェックを行い、「じゃあ治療をしましょう」と言っていきなり治療に入ります。治療の前に当然行われるべき、「精密な検査」と、検査結果に基づいて疾患の原因を探り、適切な治療方法を導き出す「診断」が行われていないのです。

 これは考えてみたら非常に怖いことです。例えば、あなたが心臓の調子が悪いとします。病院へ行って心電図をとられて、医師からいきなり「はい、心臓が悪いようなので、とりあえず手術しましょう」と告げられたらどう思いますか?

 現在、日本の歯医者さんで行われている医療は、信じられないことですが、これとほとんど変わりません。医科医療であれば当然行われている治療に入る前の「検査」と「診断」が、歯科医療ではまったく無視されているといっても過言ではないのです。

 当然、きちんとした検査と診断をせずに行われた治療が、その患者さんにとって最も適切な治療であるはずがありません。したがって、日本では多くの人が生涯に渡って何度も歯の治療を繰り返し、挙句の果てに高齢になったとき自分の歯がほとんど残っていない、という非常に不幸な結果を招いているのです。


歯科大学は国家試験の予備校!?

 ではなぜ、日本の歯科医療には北欧諸国のような「予防」という考え方、そして治療に入る前の「診断」というプロセスが欠如しているのでしょうか?

 ひとつには教育の問題があります。日本の歯科大学、歯学部では、極論を言えば「削って詰める」ことしか教えていません。「予防」という考え方も、「診断」の大切さや技術も教えてくれないのです。日本の歯科医療において、これは大きな問題です。

 幸い私はフィンランドのトゥルク大学で「予防」や「診断」について徹底的に学ぶことができました。そこで感じたことですが、日本の歯科医療教育の中に「予防」という発想はありません。「いかに精度よく削って詰めるか」「歯がない部分にいかにインプラントで歯を入れるか」といったことしか学んでこないのです。まずこうした歯科医療教育のスタイルを変えないかぎり、日本の歯科医療の改善は望めないのではないでしょうか。

 また現在のアメリカやヨーロッパなど海外における歯科大学や歯学部での教育と、日本の歯科医療教育はさまざまな点で異なっています。

 一番大きな違いは、海外の歯科医療教育のほうが専門性は高い、ということです。虫歯治療、歯周病治療、矯正、インプラント、審美歯科など、大学を卒業した段階でかなり高度な診療ができる状態で、各専門分野のライセンスが与えられます。

 一方日本の場合は、どこの歯科大学もそうなのですが、歯科医師国家試験に受かるための予備校のような教育環境になってしまっていて、知識だけは習得しますが、技術に関しては卒業してから独学で勉強していく、という状況です。最近では、大学を卒業するまで、実際に患者さんを治療した経験が一度もない、という学生もいるようです。にもかかわらず、卒業してからの一年間は研修医として診療できるため、国家試験は通ったけれど、危なくて診療させられないという歯科医師がたくさんいる、という問題が発生しています。

 こうした日本の歯科医療教育は、30年前と比べてほとんど変わっていません。そのため、治療の技術面だけでなく、歯科医療において本当に必要な「予防」に対する考え方や、「診断」に関する知識や技術がまったく身に付かない。臨床に活かせない知識だけでいっぱいになってしまっているのです。

 また、日本の歯科医師は各分野を網羅的に勉強しているため、専門分野に特化した医師はあまりいません。アメリカであれば、根の治療ならこの専門医、かぶせる治療ならこの専門医、外科ならこの専門医、歯周病の治療ならこの専門医といったように、専門医制になっています。一方、日本の場合はどこの歯科医院でも、大抵すべての分野の治療ができます。

 日本の先生たちは勤勉なので休みがあれば勉強するのが普通です。いろいろな治療ができるのも、そのせいかもしれません。いろいろなことができて、しかもそれぞれのクオリティーが高い。つまりは患者さんが必要なものが何でもそろっている〝一流のデパート〟のようなイメージです。ですから、ひとつの歯科医院に行けば、歯周病の治療、根っこの治療、かぶせる治療と、全部できてしまうのが日本の歯科医師なのです。

 先ほど、日本の歯科医師は大学において知識中心の教育を受けているため、技術面でやや弱いということに触れました。しかし日本の歯科医師は、大学卒業後はスキルアップを目指して非常によく勉強するため、実は施術のスキル、技術面では欧米に引けを取らないくらいに高いのです。ただ、せっかくいい腕を持っていながら、それを十分に活かしきれていないところに、日本の歯科医療界の問題があります。


「予防」をカバーしない日本の保険制度 

 日本の歯科医師の能力や技術力は、過去の歴史をさかのぼっても決して正当に評価されてきたとは言えません。

 欧米の近代歯科医療が日本に入ってきたときに分かったことは、日本の歯科医師の技術レベルが非常に高いということでした。例えば、歯に詰めものをする治療の場合、アメリカの歯科医師であれば1日に4~5本しか行えないのに対し、日本の歯科医師は同じクオリティーで、30~40本も治療することができる。なんと6倍以上のスピードです。

 その後、日本人の歯科医師としてのクオリティーはどんどん上がっていったにもかかわらず、保険の点数はほとんど変わりませんでした。医科の場合は薬剤の薬科の点数も、経済成長に合わせてずっと右肩上がりで増えてきたのに、歯科に限っては30年前とほぼ横ばいの水準でほとんど変わっていません。歯科医師の技術力、高度なスキルが正当に評価されてこなかったのです。現在も、日本の歯科医師が持つ技術力は、世界的に見ても格段に高い。しかしながら、国で決められたさまざまな制約が過剰なために、せっかくの技術力が発揮できない、という点が問題なのです。

 とくに、日本の歯科医療における保険制度である「国民健康保険」にはさまざまな問題が潜んでいます。日本で北欧諸国のような予防医療が普及しない原因のひとつが、この保険制度です。なぜなら、日本では予防医療が保険対象外とされているからです。

 海外から見れば、日本の医療保険制度は素晴らしい仕組みだと捉えられているかもしれません。しかし、この保険制度がカバーしているのは、国民が最低限度の生活を営むために必要な部分だけです。歯科医療においては、虫歯治療には保険が利きますが、予防医療には保険が利きません。よく考えてみるとこれは少しおかしな話です。なぜなら、「国は、疾患になる前の予防に対して保険で援助し、もし疾患になった場合は自己責任のため自費で治療を行ってもらう」というのが本来あるべき姿だと考えるからです。

 私は、現状の保険システムでは、日本の歯科医師が持っている知識や技術レベルのほんの一部しか活かされていないと感じています。これは非常に残念なことです。「予防医療」は保険でカバーされない自由診療(自費診療)のため、ほとんどの歯科医師は予防医療に踏み込むことに対して躊躇してしまうのです。

 結果としてどの歯科医院に行っても保険の適用範囲で行う同じ治療となってしまい、歯科医師は患者さんに対して予防医療を積極的に薦めることをしなくなっている、というのが現状です。

 こんな状況下でも、従来どおり「削る」「詰める」といった治療で患者さんが健康になって喜んでくれるのであれば、現状の仕組みを変えなくてもよいでしょう。しかし現状の歯科医療に対して、患者さんの満足度は決して高くはありません。そのため、多くの人が定期的に来院されない状況に陥ってしまっているのです。

 こうした現状のなか、「一度治療を受けたら、二度と同じ疾患が起きることはありません」と断言できる歯科医療を提供することができれば、皆がもっと歯科医院へ行くことになるはずです。


なぜ国は耐えられなかったのか

 ここまで述べてきたように、日本の歯科医療に「予防」という考え方が根付いてこなかった原因は、歯科医師教育の問題に加え、国、政府の歯科医療に対する取り組みにも大きな問題があります。

 北欧諸国も、かつては現在の日本と同じように、歯医者さんと言えば治療をするところでした。しかしフィンランドやスウェーデンでは、1960年代後半から歯科医療を「治療」から「予防」へとシフトさせようと、国をあげてどうすればいいのか話し合いが重ねられ、その結果、現在のような「予防」を中心とした歯科医療が確立し、治療の必要がない夢のような社会になったのです。

 日本では、こうした国による歯科医療への取り組みが不十分であると言わざるを得ません。国として、どこにどういう問題があるのかということは把握していながら、それに対して積極的に何か対策を打ち出そうという姿勢が感じられないのが現状です。医科の分野においては国も真剣に考えていますが、歯科の分野に関しては、かなりなおざりな状態になっている、と思われても仕方ありません。

 実は2005年前後に、フィンランドやスウェーデンへ、日本の厚生労働省が視察に行っています。北欧諸国には「予防」という仕組みが存在し、しっかり機能しているということを知ったからでしょう。その後日本でも「予防」に力を入れようと、それまで保険の利かなかった予防医療に対し、保険が利くように法律を変更した時期が1~2年ほどありました。

 そのとき、歯科医院に足を運ぶ患者さんも大幅に増え、これでようやく日本の歯科医療環境が変わるのではないかと大いに期待されました。ところが、その制度はそう長くは続かなかったのです。それは歯科医療費が急激に増えたことが原因だったからです。「治療」より「予防」がいいと誰もが分かりますから、予防医療を受ける患者さんの増加とともに、歯科医院も積極的に予防医療に取り組んだのです。歯科の医療費がどんどん上がっていったため、国は「これ以上、歯科医療費が増えては困る」とばかりに、突然スパッとやめてしまったのです。

 スウェーデンは日本とは状況が異なりますが、1970年前後に「国の政策として予防に変える」と決断して予防歯科医療を進めていきました。その後、政策を実現させるため「治療」する人が一気に減少し、総医療費がグッと下がっていったのです。

 日本でも、もしあのまま「予防」が保険でできるようになっていたら、しばらくの間、医療費は増え続けたと思います。しかしそのうち「予防」の効果が上がってきて、その影響で「治療」の医療費が下がりはじめ、どこかで「治療の医療費」と「予防の医療費」とが逆転していたはずです。あのとき国がもう少し耐えることができればよかったのです。せめて5年くらい耐えてくれれば、歯科医院の間でも国民の間でも「予防」という考え方がしっかりと根付いて、日本の歯科医療の環境も大きく変わっていたはずです。しかし、国が諦めてしまったために、結局「治療」中心のまま、今日まできてしまいました。

 こうした過去の例があるように、一応新しい施策を試みる姿勢は見せるのですが、政策として長く続かないのが、日本という国の現状です。


中国にも追い越される日本の歯科医療

 日本の歯科医療は「予防」という点で、また、国民のデンタルケアに対する意識の高さという点で、北欧諸国だけでなくお隣の中国にも遅れをとっていると言わざるを得ません。

 先日、北京を訪ねた際に知ったのですが、北京の一般的な歯科医師は、1日3人程度の患者さんを診察すれば、その日の仕事は終わると言うのです。それでいて所得は日本よりも断然高いという歯科医師が数多くいるそうです。なぜかというと、日本よりもデンタルケアのためにお金をかける人々が多く、国民の「予防」に対する意識も高いからです。

 中国では、かつて歯科医院は国の管轄だったのですが、1988年から歯科医院を個人開業できるようになりました。国としても歯科医療に力を入れているらしく、それに伴って、最先端の医療技術がどんどん国外から入ってきているようです。

 私の医院にも以前、北京から歯科医師が視察に来ましたが、その際、私の医院で行っている「予防歯科」の話をしたところ、「中国でも、ぜひ辻村先生の歯科予防メソッドを広めたい」と言ってくれました。それほど中国の歯科医師は「予防歯科」に注目しているのです。おそらく中国の歯科医師のほうが日本の歯科医師よりも、予防に対する意識が高いのではないでしょうか。

 現在、一般的に歯科予防に使われているキシリトールなどは、以前は中国よりも日本のほうが売れていましたが、最近、中国でも注目を集めてきており、中国へ大量に流れているようです。

 中国だけでなく、日本以外の国々では、国の政策として歯科医療に明確な方針を打ち出しているところが多いようです。日本に比べて政府の医療担当者の任期が長いという理由もあるのかもしれません。日本の場合は国の担当がコロコロと変わってしまうため、歯科医療政策も中途半端になってしまっているのかもしれませんが、とにかく日本の場合、国家戦略的にロングスパンで医療政策や施策を打てないところに問題があります。

 中国では、「治療」であればアメリカ式、「予防」であれば北欧諸国式といった具合に、上手くいっている他国を参考にした上で、歯科医療における仕組みを整えています。このままだと、日本の歯科医療が中国に追い越される日もそう遠くないのかもしれません。

 

 

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