【無料お試し読み】 マッキンゼー成熟期の成長戦略 2014年新装版

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新装にあたり、100点を超える図版はすべてリデザイン・著者インタビューを追加収録。


『マッキンゼー成熟期の成長戦略 2014年新装版』第1章より


――成熟社会こそ成長指向を

 今回のコンファレンスの序論として、主要国の「企業環境にどんな変化が起こっているか」をテーマに、企業戦略、組織運営、経営システム、国際化(多国籍化)、技術革新の五つの節をもうけ、それぞれについて述べてゆきたい。


1 企業戦略

低成長下のインフレでは縮小均衡はあり得ない

 企業戦略について特に注目すべき点は、一言でいえば、従来の常識が通用しない状況がつぎつぎと発生している、ということである。とりわけ、成熟したマーケット、成熟した世の中でインフレが進行するということは、戦略的に見て非常に大きな問題を提起していると思われる。

 その第一は、マージンの著しい低下である。背景としては次のようなことがあげられよう。固定費の割掛部分(固定費を売上高で割ったもの)が、固定費自体のインフレのためにどんどん上昇してくる。しかし、成熟化でマーケットが伸びず、需要が供給を下回っているために、特に固定費からくるコスト上昇分を価格に転嫁できない。そのためにマージンが低下してくる、という構造的な問題が考えられる。

 生産財に関して最近ある調査を行なったが、その際、企業を四つのタイプ――(A)成長も収益も非常によい会社 (B)成長指向の強い会社 (C)収益指向の強い会社 (D)成長も収益もあまりよくない会社――に分けて分析してみた。

 売上高の推移を見ると、当然ながら優良な会社(A)、成長型の会社(B)が非常に伸びている。重要なのは、たとえば従業員一人当りの売上高という生産性を示す指標を見ると、成長型の会社(B)は生産性が上昇しているのに対して、縮小均衡、あるいは収益の維持に努力した会社(C)はなかなか生産性が改善していない。すなわち、わが国の場合には従業員の人件費が固定費の大部分であり、全体の固定費をインフレ的に押し上げるという悪化要因になっている。もう一つの大きな固定費である販売管理費を見た場合も、優良型(A)と成長型(B)の企業は、分母の売上高がどんどん伸びているので販管費率がしだいに改善してくる。しかし収益指向型(C)、成長も収益もあまりよくない会社(D)では、このような固定費率が時とともに高くなる。この両グループ間の大きな差異が、結局は収益に影響を与えることになる。

 成長指向型企業は、最初は成長のための、人を含めた固定費投資に苦しむし、また収益も悪い。しかし、実際に売上げが伸びてくるにつれて、しだいに収益性が改善してくる。これに対して、石油危機直後に縮小均衡をして収益を指向した企業は、短期間は当然収益を享受することができたが、現在では成長が止まり、結局、固定費の伸びを吸収し切れずに収益性が落ちてきている、というのが実状である。つまり、収益指向型企業の営業利益が、ここ数年ずっと縮んできているのに対して、成長指向で売上高を伸ばした会社が最近になって営業利益を改善してきている、という現象がある。

 これはとりもなおさず、業界のなかに一社でも成長指向をした企業があると、その企業のもっているマージンが(売上高を分母に置くので)しだいに改善してくる、ということである。そして、このマージンを価格政策によって市場にはき出せばシェアがとれ、ますます売上げが伸びるという好循環になり、逆にマージンを社内留保しておけば顕著な収益の改善となって現われるわけである。

 このように成熟社会においても、成長指向は収益維持のために不可欠であるという、従来では考えられなかったような現象が起こってきているのである。


買収以外の新規参入は困難

 第二に、インフレということの意味合いをよくよく考えてみると、買収以外の企業成長の途(みち)が非常に困難になってきたといえる。ところが日本では従来、企業買収は非常に限られた企業または業種でしか行なわれていなかった。

 不動産とか固定費の非常に重要な産業においては、早い時期に投資を行なったほうが償却部分が少なく有利である。ホテルやスーパーマーケットのように不動産によって業績が大きく左右されるものでは、特にこの傾向が著しい。たとえば現在、不動産その他を全部新規購入して事業を開始する場合、十年前にすでに事業計画を立ててそれらを購入していたところに比べて当然のことながら圧倒的に不利である。

 日本の場合は一株当りの利益に株価がスライドする傾向があるので、株価が実際の資産に対して非常に安いという現象がある。このへんの日本の株式市場の一つの矛盾と、インフレという現象とを絡み合わせてみると、ある事業への後発参入が非常に困難になったという事実が出てくる反面、買収その他による成長戦略に急に魅力が出てきた。これまで日本では、精神的にも、歴史的いわく因縁のもとにも、できれば買収という形を避けたいということであったと思う。しかし、この方法によらずに企業成長を続けることは、業種によっては戦略的には無謀ともいえるほど困難になってきている。このため今後急速に、買収による成長戦略がいろいろな企業によって採用される、とわれわれは考えている。

 アメリカにおいても、一九六〇年以前の成長期には企業買収のような企業成長の手段はあまりとられず、やはり自力成長をめざしていた。しかし低成長に移行した六〇年代以降、買収が非常に盛んになってきた。そういう点からも、低成長下でのインフレ進行ということの企業戦略に与える意味合いは非常に大きいといえよう。


労働集約型から資本集約型へ

 次に、自動化、合理化という現象を吟味してみたい。第一に、自動車、エレクトロニクス、家電というような組立型、かつての労働集約型の産業が、固定費産業、装置産業になってしまっている、ということがある。この一つの意味合いは、工場を廉価な労働力を得られる場所に立地するという成長期の考え方から、むしろユーザーに近い場所に立地するという考え方にシフトしなくてはならなくなった、ということである。これはもちろん、東南アジアなどへの生産基地の分散から、欧米市場に対する直接集中投資への移行をも含んでいる。

 昭和四十年代初めに、成長のために東北や九州の山の中に工場を分散して成長した会社がある。主として労働力を得るためにそうしたわけであるが、今日ではそういう工場は非常に苦労している。そうした工場では、規模が小さすぎて生産性改善のためのスタッフもあまり置くことができない。また合理化のための設備投資をしようとしても、あまりにも工場が分散しているために、すべての工場を合理化するわけにはゆかない。このため競争相手のなかに一社でも一つの工場に集中投資した会社が出現すると、その会社にはかなり競争力が出てきてしまう。

 こういうことから、ひとたび固定費的産業に移った事業においては、その固定費を償却するために再び規模を追求しなければならない、という循環になってきている。

 労働集約型と思われていたかつての組立型産業では、人件費率が総原価の約二五%というのも珍しくなかった。今日、これらの事業における直工の人件費率は、少ないところで五%、多くてもせいぜい一〇%以内にとどまっている。こういう産業においては、もはや直工の生産性向上による差別化は非常に困難である。したがって、地方や東南アジアに工場を分散したりして廉価な労働力を求めるよりも、むしろ市場に近い所、あるいは生産性向上のための強力な自動化設備や生産技術のスタッフをまとめて置ける所に集中的にもってゆかなくてはならない。

 このような背景をふまえて、労働集約型の産業が資本集約型になってきた、ということの意味をもう一度よく吟味してみる必要があるだろう。


装置産業は変動費型産業に

 それと反対の現象が化学産業などで見られる。石油化学プラントその他のかつて装置産業といわれていたものでは、エネルギー危機のあと、原材料費が総原価の七〇%を超えるまでになり、なかには九〇%を超えているものもある。かつてこの種の事業の成功の鍵は、高固定費を償却するために操業度を維持する、という装置中心の考え方であった。ところが変動費の高騰した今日、そういうことをしたのでは貴重な原材料のむだ使いにつながってしまう。

 そこで、付加価値を求められるところにのみ参入し、加工して再びそれを売ってしまう、という点に成功の鍵が移ってきた。石油精製プラントといえども、全部垂直方向に統合した形ではなく、市場価格の安いものを購入し、中間生成品で市価の高いものがあったときは自在にそれを売ってゆく、という商社型の経営が必要になってきている。また、購入価格がいくらかでも違うと、競争上その部分が大きな差別化要因になるので、安定供給源の確保、購入手法の改善などがきわめて重要になってきている。

 ところで、アメリカのダウケミカルとデュポンの経営格差が開いてきたといわれている。ダウはかつて借金経営で有名であった。その借金で川上の鉱山や資源を買っていたわけで、そうすることによって重要な原材料部分についてのインフレを抑えることができたわけである。他社が依然としてインフレの影響で価格上昇の著しい原材料を買うのに対して、ダウは川上まで垂直統合してしまうことによってインフレに強い体質をもつに至り、それが今日やっと価格競争力や収益力格差となって反映されてきている。

 このような意味でも、エネルギー危機は装置産業を変動費型の産業に変えてしまった、ということができる。そうなると、変動費のインフレをいかに抑制するかによって競合格差が出てくるので、そうした観点から当然、戦略も大きく変わってこなければならないことがわかる。


分散から集約化へ

 前述のように、合理化推進のためには、結局は分散したものを集約しなければならない。それは工場についてだけいえることではなく、知的ワーカーにしても、分散していたのではよい仕事ができない。

 販売会社その他も集約化の方向に向かいつつある。家電などの業界では、成長期には、日本中から需要を拾ってくるために販売会社を細分化し、きめの細かいネットワークをつくっていたわけであるが、世代交代が起こり、また需要が飽和してくるにつれて、経営力の質が問われるようになってきた。そこで、販売会社も統合し、そこにしかるべきブレーンを置かないと、地方ごとに発生している熾烈なエリア・マーケティングに勝ち抜けない、という意識変革が起こってきているわけである。


コスト競争力か差別化戦略か

 伸び悩んでいるマーケットのなかで限られたパイの取り合いをするときに、われわれが最近つくづく考えるのは、相手企業に対してどのようにして競争力を維持するか、という点である。まず一つの方向としては、マスマーケットにおいては価格競争力で徹底して勝つ以外にない。

 しかし、その価格競争力がない場合には、相手と同じ土俵で正面から衝突しても全く勝ち目はない。差別化を思い切って進め、特定ユーザーに対する付加価値競争力で勝負するより仕方がないのである。すなわちコストよりもプライスで勝負するということになる。この場合には機能別競合格差、たとえばサービス、設計力、購買手法などで圧倒的優位性を確保しておく必要がある。また、ユーザーニーズの多様化に適応してゆくことも一つの途である。大多数の人は価格の安い商品やサービスを求めるが、それとは異なったニーズをもつ人もいるはずである。したがって、そういう人々にだけ訴求してゆくような差別化戦略をとり、事業として成り立たせることも可能である。

 ここで重要なことは、従来からの正面攻撃をそのままにして、さらに欲張って差別化戦略をとってはならないということである。生き残るためには、徹底的にコストで勝負するのか、特定セグメントに対して差別化戦略で勝負するのか、大方針を明確に決めておかなければならない。そうしないと、会社全体としても、どの機能を強化するかということに対して徹底を欠くし、中途半端にプライスで勝負するマス・セグメントに迷い込んで、コスト競争力の土俵に引っ張り出されても、生き残れないことになる。


差別化要因の発掘

 さて、差別化戦略をとるとして、何で差別化をしてゆくのかという問題がある。われわれは、事業の上流から下流まですべての機能をつないだものをビジネス・システムと呼んでいるが、資源調達からサービスに至るまでの一つずつの機能について徹底的な吟味をしてみると、通常、相当な差別化要因が発掘できる。たとえば、かつてはコストで勝負するには主として製造原価が安くなければならないとされていたが、現在、マス・マーケティングで流れてゆく耐久消費財のような場合には、製造原価の外側に五〇%以上のコストがある。したがって、販売管理費や流通コストの部分で徹底的に強くなる、ということによる差別化も、もちろん可能である。また、資材その他の購入品が非常に高い産業においては、その調達技術で差別化することも可能である。そのような差別化要因発掘の努力をせずに、競争相手とすべての機能で同じようなことをしていると泥仕合いになり、みんなが価格を叩いてシェアをとろうとするので、結局、業界全体の収益も失われてしまう。

 差別化の方向を求めるもう一つの方法は、われわれの言葉でいう「もれ分析」の手法を用いることである。仮に全市場に対してシェアが二〇%の会社があるとする。残りの八〇%のシェアがどうしてとれなかったかを調べてみると、製品系列の不揃いでもれてしまうのが二〇%、販売網が弱くユーザーのカバレッジが小さくてもれるのが三五%、競争負けの部分が二五%、こういう分析ができる。その三つについてさらに吟味してみると、たとえば競争負けの場合には製品、販売力、サービス、支払条件がその要因と考えられる。同様に残りの二つについてもそれぞれに異なる要因をあげることができる。そしてそれに基づいて改善項目をチェックしてゆくのである。

 実はこれも見方をちょっと変えると対競合差別化戦略のポイントを探ることでもある。というのは、この「もれ分析」によって泥仕合いから抜け出し、シェア向上のための決定打がはっきりしてくるからである。

 要は、収益を維持しながらシェアを高めるために、数ある差別化要因のどれを中心として戦略を展開してゆくのか、どれを改善して弱みを除いてゆくのかを見きわめることである。したがって、こうしたことをよく考えてみると、生き残るためには方向の明確化がきわめて重要になってきたといえよう。野球でいう「ライト=センター間に落球」したような中途半端な経営方針では、これからは生き残れないということである。


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