【無料お試し読み】 マッキンゼー変革期の体質転換戦略 2014年新装版

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マッキンゼーコンサルタントによる"変革の方法論"を公開したセミナーを基とする名著を新装刊行!

現状継続では生き残ることができない時代に、ゼロベースで新展開を切り拓く方法を〈製品開発・流通・人材〉を中心に、戦略立案~実行体制の組織化まで解説。

新装にあたり、挿入図版は全てリデザイン・著者インタビューは追加収録。


『マッキンゼー変革期の体質転換戦略 2014年新装版 』第1章より


――五つの革命の現状

 この章では、今回のコンファレンスのテーマの基本的な背景認識という意味合いで、今日、世界的に進行している重要な変化を整理して述べてみたいと思う。

 その前に、経営上の「成功の鍵」(KFS)に生じている変化の幾つかを指摘しておきたい。

成功の鍵(KFS)に生じている変化

エンジニアード・コモディティー

 まず、最近の現象として、何をやったら儲かるのか、あるいは何をやっても儲からないというように、儲かることと儲からないことが非常にはっきりしてきている、ということがいえるのではないか。

 たとえば金融機関にしてもメーカーにしても、儲からない会社というのは、完全に他人と同じことをやっているところである。車にしてもテレビにしても、ほかの会社もつくれる、自分の会社もつくれるという程度のものをつくっていてはまず絶対に儲からない。これが日本、アメリカ、ヨーロッパで非常にはっきりしていることである。

 というのは、よその会社と同じ程度のものしかつくれないとなると、今日のように需給ギャップが完全に消滅して、需要が供給ほど伸びないという時代では、プライス(価格)がほとんどとれない。

 これからの世の中で儲けるには、ほかの会社と全然違ったかたちでプライシング(価格設定)ができる、という条件が絶対必要になってきている。それがだめなら、つまり同じ値段であるなら、コストが圧倒的に低くなければならない。

 ご存知のように、コストで競争相手に十数パーセントの差をつけるということはなかなか難しい。しかしプライスであると、同じような商品でも十数パーセント高く売れる、あるいはサービスが十数パーセント高いというようなことは割に可能性がある。

 たとえば、よく売れている車をみると、値引きはほとんどない。アメリカではいすゞのピアッツアとかフェアレディーの二三〇馬力といった車はプレミアムがついて売れた。つまりメーカーのつけたプライスよりも高い値段で売れている。それに対して、どこにでもある大衆車で、後ろから見たらどこのメーカーか分からないといった車は、一五%から二〇%もの値引きをしなければ売れない。ということで、この両者の差はきわめて大きい。

 こういった価格側からする差別化が非常に重要である。私どもは、差別化ができなくなった非常に高度な技術製品のことをエンジニアード・コモディティー(Engineered Commodity)といっている。

 たとえば、カラーテレビをとってみると、これはつくるのは非常に難しい。ところがそれをブランドをとっていわゆるブラインド(目かくし)テストをやってみると、みんなどの会社のものか分からない。つまり素材になってしまったということで、Commodityというのは〝素材〟のことである。

 高度の技術製品でありながら他のものと差別化ができていないというのは、砂糖、セメント、あるいは鉄などという素材と同じになったわけである。したがって、高度技術を使っても〝素材〟にすぎなくなってしまった商品はたくさんあるということである。

 素材産業というのはご存知のように、供給量が直線のように上がっていても、マーケットがよくなると、あるところから値段が急騰し、あるところから下落する。すなわち値段は増幅しやすいわけである。

 ところがエンジニアード・コモディティーといわれているものは、値段が上がるときの局面でもそんなに上がらない。

 昨年(五十九年)のエアコンがそうであった。メーカーはかなり強気で、事実供給もかなり不足していたが、リスト・プライス(定価)より高く買ったという人はあまり聞いたことがない。

 しかし素材の場合にはリスト・プライスというのがもともとないので、急に上がったり、急に落ちたりする。いってみればヨーヨーみたいなのが素材産業の特長である。

 半導体もそうで、かげりが出てきたら値段は大きく崩れるということが十分考えられ、したがってこういうものをいくらやっても、長い年月を平均してみると、なかなか儲からない。

 事業計画を立てる人というのは、儲かっている局面がずっと続くのではないかという前提で計画を立てるが、世の中そうはうまくいかない。テレビとか自動車はもう素材産業になった。そして差別化されたものだけが儲かる。さもなければ、値段を安くするか、あるいは同じ値段であればユーザーに引き渡すまでのトータルコストで圧倒的に安い状況をつくり出すか、どちらかを選ぶべきである。

 すなわち値段で勝負するか、コストで勝負するのかを決めなくてはならない。それ以外に儲かる方法はないのである。

 昭和五十九年に鉄をつくって儲けた会社というのは一社もなかった。鉄をつくるというのは技術的にみれば大変なことで、途上国などはつくりたくてもつくれない。一貫生産の鉄鋼工場というのは特に難しい。日本のメーカーも、昭和五十七年のあたりから軒並みシームレスが駄目になって、収益を上げられなくなった。

 売上高一千億円に満たないファナックの方が新日鉄よりも経常利益が多いという異常な状態なのである。素材産業というのは非常におそろしい性格を持っているといえる。それほど難しい鉄鋼であるが、ヨーロッパでもアメリカでも一社も儲けていない。まして日本でも儲けていない。

 こうなってくると、儲かるというのは、どういうことか、をよく考えた方がよい。事業計画を立てるときに、価格を甘めにみて、コストを低めにみて、シェアを高めにみていれば絶対に儲かる計画はつくれる。が、世の中には競争相手とお客という二つの重要な要素があるので、このことをよく覚えておいていただきたいと思う。


リレーションシップ・マネジメント

 二つ目に大きな変化としていま起こっているのは、お客さんとの関係がきわめて重要になってきたということである。

 すなわち、成長期――いまから十年ぐらい前というのは、新規顧客の開拓が非常に重要であった。ところが成熟期というのは、お客さんの数はあまり増えない。同じお客さんが古くなったものを買い替えてくれるとか、景気がいいから買い増しをしてくれるということで需要が発生する。まったく新たにお客が入ってくるという局面は非常に少なくなってきている。

 産業用の製品もそうであるが、客の数そのものはあまり増えていない。すなわち、新規顧客開拓が重要であった時代から、既存客を守ることがきわめて重要な時代に移ってきている。このような大きな変換があるのである。

 ワープロのように、突然出てきた商品は新規顧客の開拓が重要であるけれども、その他の商品については大体、代替という状況に入ってきている。

 つまり、いま存在しているお客さんと深く付き合う、よりよく付き合う。よそのものを使っていれば、自分のものに乗り替えてもらう。こうしたことが、マーケティング上、非常に重要になってきているのである。

 耐久財の需要というのは、放っておくとまったく発生しない、つまりゼロのことがある。たとえば、車の会社が今日全部倒産して生産を一年間ストップしても誰も困らない。部品があって修理すれば全部使えるし、新しく買いたい人は我慢すればよい。では車の会社があのように操業しているのはどういうことかというと、ユーザーが古いものを捨てて新しいものを買っているからである。

 では古いものがほんとうに使えないのかというと、そうではない。耐久消費財とか生産財の寿命を決めるのはユーザーである。それは当面の懐具合と、ほかにどうしても買いたいというニーズのある購買品目との競合によって決まる。

 車でいうと、業界の平均は大体四年で買い替えることになっているが、あるときユーザーが申し合わせたように六年使うことにすると、二年間需要が発生しない、ということが起こりうる。また、みんなが三年で買い替えるようになると、いっきょに三三%需要が増してくる。

 いわゆるポピュレーション(本来人口という意味であるが、テレビが世の中に何台あるかというような〝保有台数〟という意味のとき使う)というのが、とりあえず現状ニーズをがっちり満たしている。その寿命を、修理したりして買い替えを我慢して延ばしていくと、需要は極端にいうとゼロになることもある。そして誰も不自由しない。

 すなわち、お客さんに非常に大きな変化が起こっている。したがって、お客さんの心理や財務状況を理解して、そのお客さんになるべく自分のところのものを買い替えで買ってもらう。買い替えということは、たとえば生産機械にしても、現在好意を持ってもらっていないと、次には違うメーカーのものを買われてしまう。ユーザー側の方が上手をとる。

 といったわけで、いちいち新しい顧客を引っ張ってきて、買い替えをしてもらって常に新しい顧客に切り替えていくとか、自社の製品に不満足で、次にはお客さんを失うということをやっていると、事業を継続していくコストがものすごくかかる。それよりもいまのお客さんを大事にし、買い増したり替えたりするときにはまた使ってもらう――そのためのマーケティング・コストの方が低いのである。

 この辺の事情を背景として考えると、いまこの時期になぜリレーションシップ・マネジメント(Relationship Management)ということが重要になってきているかが理解できるであろう。リストが十分にできていない顧客のところで自社製品にどういう状況が起こっているかよく分かっていない。セールスマンが買って下さいというだけで、実は相手がどういう使い方をしているか知らない。――こういう会社というのは確実にだめになる。

 相手をよく理解した上で、これを買った方が生産性が上がる、こういうメリットがある、いま使っている機械にはこういう問題があるのではないか――このようなことがしっかり説明できて販売ができるようになってこないといけない。

 マッキンゼーのRM=Relationship Management という概念は、いま、日本の金融機関や商社などで広く使われるようになったが、その重要性はメーカーにおいても同様である。

 その基本的認識というのは、いまいるお客を大切にしていくということ。それが成熟期の、顧客の増えないときにはきわめて重要なことであるということである。したがって、単にあそこがやっているから自分のところもRMをやろうということで形式だけを真似たのではだめなのである。

 つまりRMの背後にある理念というのは、相手側から発想して考える、という考え方である。

 大手の都市銀行で行なわれているRMを例にとると、従来銀行というのは貸す側と借りる側と、全部機能別に分かれていたが、これがユーザーからみて、一人の人にいろいろなことが頼めるようになるということである。これは銀行の業務のやり方、並べ方を抜本的に変えたということである。

 メーカーの場合はアカウント・マネジメント(AM=Account Management)という言葉を使うこともある。つまり、お客の口座をマネージするということである。

 既存客は当然守るが、それと同時に、競争相手が守っているお客さんを奪ってくるということが重要になる。「森の中で青い小鳥を見付けるよりも、手の中の青い小鳥を大切にしましょう」といういい方で表現した人がいるが、まさにそういうことである。このようなわけだから、深耕、深掘り、リレーションシップ・マネジメントというのは、全部同じ背景認識から出てきている最近の潮流といえる。


総合的経営力を問われる時代

 三番目に、日本の企業経営に大きく影響している要因として、総合的な経営力が非常に問われる時代になってきた、ということがある。

 昔ならば、たとえばコストダウンに非常に強い会社、あるいは広告宣伝が非常にうまい会社といったぐあいに、ある機能だけが強いという会社でもけっこううまくやっていけた。それに対して、私がいま申し上げたいのは、最近はトータルな経営力がないとやっていけない状況になってきている、ということである。

 たとえば、本当は製品力で競わなくてはいけないのに広告宣伝だけでもっているというところは、差別化できなくなったときに破掟をきたす。製品力がついていなければ、悪い商品について立派な広告をする、ということになってしまう。

 また、景気がいいからといって間接人員をどんどん増やし、システム化、機械化が遅れたということになると、構造インフレ的な人件費増に悩む。

 間接人員の使い方も非常に重要になってきている。基本的には、人間の生産性というのは上げられない、創造性もなかなか出てこない、金融力がない、というのでは経営力があるとはいえない。

 金融力の重要性が増している。たとえばいま、経常収支と経常外収支というのを見ると、かなりの業種において、同業企業間の経常外収支の差の方が大きくなっており、これが企業間格差につながってきている。

 たとえば、自動車業界でトヨタとホンダを比べると、製造原価ベースのところでは両者はあまり変わらない。しかし金融収支のところになると大きく変わる。売上高利益率が八%の会社と三%の会社ぐらいの違いが出てくる。

 大半の業界では、金融収支のところでの差の方が、製造原価ベースでの差より大きい。

 たとえば、松下と日立、東芝を比べると、製造原価ベースのところのプラス・マイナスよりも、その外側のプラス・マイナスの差の方が大きい。

 しかも財務力というのはただ単に財務というのではなく、経常外収益を増す、有価証券など現預金の生産性を増す――そういう力である。

 私がいま述べたようなことが全部ないと企業体力につながってこない。ということは、本当の経営力がないとだめだ、ということである。つくるのがうまいというだけならば下請けになる。売るのがうまいというだけなら商社になってしまう。

 本当の会社というのはやはり、ビジネス・システム全体が優れていなくてはならない。購買、生産、設計、物流から販売サービスに至るまでのシステムが非常にしっかりしていると同時に、人間、お金、技術という経営資源の生産性が非常に高い。これらの資源を全部「経営」していかなくては、競争相手に対する優位性というものが、経常外を含めた収益というところで保てない。そのいちばん最後の収益が再投資のための原資になるわけであるから、これがないと企業経営は前向きに転がっていかない。トータルな経営力が非常に重要になってきた、と私が申し上げたい理由である。

 以上に述べた三つのうちのいずれが欠けても儲からない、ということがいえる。したがって、ある局面だけ非常にヒットして、競争相手がいない間の半年か一年だけ儲かったという話はよく耳にするけれども、そうではなく、つまり企業経営というのはある程度永続性がないと困るので、そのような観点から見て、この三つの要因をよく吟味していただきたい。


1 技術革命

 さて、こうした経営上の「成功の鍵」(KFS)の変化を前提として企業環境の変化を眺めてみよう。

 私はこれまでにも機会のあるごとに、現在進行中の五つの革命を詳しく吟味することが大切であると繰り返し述べてきた。前回のコンファレンスでもそのことは述べたが、その後新たに起こった幾つかの事象も合わせてこれらの革命にもう一度焦点を当ててみよう。

前走者を否定して伸びる


 その第一は「技術革新(命)」ということである。

 最近の新聞にあったように、アメリカの国防省が日本の技術製品十六項目を欲しいといってきた。

 この分野はよく見ると少しエレクトロニクスに偏っているが、実際には生命工学とか遺伝子工学の世界でも非常に大切な変化が起きている。

 また、当然エレクトロニクスの世界でも変化が起こっているし、微細加工というようなメカニカルな分野でも大きな変化が生じている。

 素材についても、セラミックスを中心とした素材、エンジニアリング・プラスチックスを中心とした有機物の素材のようなところで大きな変化が起きており、無機物の分野ではたくさんの複合材が出てきている。

 こういう物質は、従来の延長線上にはない物理的な性質を持っているので、これをよく理解していないといけない。

 また、自分の会社が見究めていなくてはならない応用分野や競争相手の景色も、これらをめぐる領域では著しく異なる。

 たとえばバイオ(生科学)の領域を見てみると、この分野で活躍している会社にはあまり薬の会社は見当らない。洋の東西を問わず、技術革新があると、革新後、その技術革命をうまく利用して生き残る会社というのは前の世の中でうまくやっていた会社ではない、というジンクスがある。したがって、こういう革新を先取りして、革新後もそういう新しい分野で昔の企業体を継続できたという会社は意外に少ない。アメリカにいたっては皆無に近い。

 たとえば、アメリカでいわゆる電機会社といわれていたところでは、電子会社になれた例はほとんどない。ジェネラル・エレクトリック、RCA、ウェスティングハウスなど、みんな総合電機会社といわれているが、今日見るとエレクトロニクス部門が非常に弱い。半導体事業も弱い。

 エレクトロニクスの会社はいくつかあるが、それらの会社は、エレクトロニクスの次に来るテレコミュニケーションとかコンシューマー・エレクトロニクスの分野になると大変弱い。新種の会社、たとえばIBMなどがそちらの方向に移っている。エレクトロニクスの部品がちゃんと製造できても、必ずしもそこから先に行けるとは限らない。

 したがって、常に、新しく出てきた会社というのが、前にいる巨人を否定して、新分野で伸びている。

 また、IBMとかAT&Tというような巨大な、テレコミュニケーションとコンピュータを抱えたような会社というのは――いま本当に付加価値があるのはソフトウェアであるが――ソフトウェアでは必ずしも強いといえない。ロータスやデジタルリサーチのように急成長している会社がいくつかあるが、それらはまたIBMでもAT&Tでもない。

 そのように世の中の儲かる分野はどんどん移り変わっていくが、大会社というのは古い付加価値のところにしがみつくという性癖がある。

 いまある付加価値は、いまどんなに儲かっていても最後には「素材」になってしまう。そのときに、次の世代に新しく差別化できるものは何かということを見抜いて、そこでリーダーになるための条件を育てるために積極的に人、金、物を注ぎ込める経営者というのは非常に少ない。

 大体、経営者というのは目に見えてない事業について大騒ぎすることは後ろめたく思っている人が多いから、「やらなければいけない」ということはいうけれども、本当にいまのものをガタガタにしてもやるかというと、まずやらない。

 事業には、テーゼよりアンチテーゼの方が必ず勝ってくるという局面がある。

 日本の薬品会社の場合も、バイオ、バイオと口ではいいながら、本当にバイオをやっている会社は少ない。本当にやっているのは、あまり儲からない素材をやっていた化学会社とか、林原のような、ベンチャー的なところということになる。気がついてみると、食品とか化学会社の方が薬の分野にどんどん入ってくる、という時代になってしまった。


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