【無料お試し読み】 マッキンゼー成熟期の差別化戦略 2014年新装版

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マッキンゼーコンサルタントが公開した"勝つための戦略"の名著を新装刊行!

市場において自社への強いユーザ支持はいかに引き出すことができるか。「製品・市場」「コスト競争力」「技術開発」の観点から徹底解説。

新装にあたり、挿入図版はすべてリデザイン・著者インタビューを追加収録。


『マッキンゼー成熟期の差別化戦略 2014年新装版』第1章より


――同時進行する五つの革命

 これまで本シリーズ(『現代の経営戦略』『成熟期の成長戦略』)は一貫して成熟期、低成長時代を乗り切るための戦略を論じてきた。現代の情勢をみると、その生き残りの条件とか収益をあげつつ成長するための条件というものは、非常にはっきりしてきている。

 一つは、圧倒的な強さというものを確立して、市場におけるローエスト・コスト・ポジションをつくり上げる。すなわち、ユーザーの手元に届けるまでの総費用を、競合との比較でみて一番低い状況にもっていくということである。これができれば、価格戦略上、非常に優位にたてる。その価格の力を用いてシェアをとることもできるし、現状のシェアでいいとなった時には、それがそのまま収益につながるといった構図になるからである。

 しかし、世の中の企業のすべてが、こういった強者の戦略をとれるとは限らない。むしろ、数においては圧倒的に多数の企業が、とりたくてもとれない戦略であろう。そういう企業にとって、もう一つ残された生き残りの戦略というのが、今回の本書のテーマである「差別化戦略」である。

 以下、製品・市場、販売方法、コスト競争力、技術開発体制といった面での差別化戦略を述べていくわけであるが、その前に、例によって背景となる企業環境の変化をとらえる意味で、五つの革命の同時進行ということを申し上げておきたい。

 五つの革命というのは技術革命、生産革命、業務革命、流通革命、国際化における革命で、背景とその意味するところのものが明確に異なった革命が同時に進行している。これらの革命は、従来の経営のやり方を大きく変えるという意味で、その影響は計り知れないものがある。


1 技術革命

ジェネティック・エンジニアリング

 まず「技術革命」をとり上げてみると、とくにジェネティック・エンジニアリング(遺伝子工学)とかバイオテクノロジーといわれているような生命科学の延長線上で、さまざまな技術革新が進行している。

 さらにはそれとは全くかけ離れたところでエレクトロニクスがある。アメリカではマイクロエレクトロニクス革命といわれているが、これはかつてトランジスタがもたらした変化をエレクトロニクス革命とすると、現在進行しているのは、さらにそれを小型集約化したマイクロエレクトロニクス革命といわれているものである。

 次にエネルギー革命だが、これは石油価格の高騰によって誘発された代替エネルギーの革命である。

 そのほかにもう一つ加えると、新素材革命というものがある。従来考えられなかったような物性を持った素材が、ここにきて続々と応用段階に入ってきているのである。

 これらはいずれも原理的には古くから知られていたことであるが、ここ一、二年の間にそのアプリケーションと経済的価値が全面的に認識されるようになってきたのである。

 たとえばジェネティック・エンジニアリングは、現在の食品会社、製薬会社、化学会社――化学会社のなかでもいろいろな触媒を用いて反応をさせているような会社、あるいはファインケミカルの分野にどんどんと入っているようなところ――では、非常に大きなウエートを占めてきている。

 一例として生産技術そのものにも、既に影響を与えている。バイオリアクターといって、従来のような触媒を用いた複雑な反応装置の代わりに、生物を用いて反応を進行させる。そうなると装置産業とはいえないぐらい簡単なタンクのようなもので、化学反応が進行してしまうといったようなことにもなる。


マイクロエレクトロニクス

 エレクトロニクスの分野では、マイクロプロセッサー、センサー、アクチュエーター(駆動機構)といったようなものが次々に生み出されている。その結果、従来家電、事務機、生産機械と、異なった三つの島があったと考えられていたものが、マイクロエレクトロニクスの進展によって、これらの三つの産業はもしかしたら一つの産業になってくるのではないか、という可能性が生まれてきている。

 たとえばいま話題のロボットであるが、このロボットの目は、現在ではガリューム砒素系のセンサーを使い、コンベヤーの上を流れてくる製品の像を見て、それがAという製品であった時には、プロセッサーを通じて腕のアクチュエーターを、Aという製品のように動かす。これがロボットであり、非常にフレキシビリティがある。従来のように大量生産で、一定のパターンの生産をするのと違い、中品種少量生産とか、多品種中量生産に適しているのである。そういった目の部分に、チャージドカップルデバイスとか、リニアモスといわれるようなものが使われる。

 こうなってくると、それはたとえばビデオテープレコーダーのカメラの部分と全く同一の技術である。そのカメラの部分は、今後複写機がデジタル化してくると、複写機の読取り部分と全く同じになる。これはさらにいうと、カメラそのものの電子化という過程で使われる読み取り部分と全く同じになってくるのである。

 結局、このように人間の目の働きをして、それから画像処理をする技術というのは、家電に属するビデオテープレコーダーのカメラ、事務機である複写機、ファクシミリや情報検索用の読取り機械、そして工場の生産に使われる画像処理イメージセンサーと、用途は違っても、要素技術としては、ほとんど同一なのである。つまり、従来違う産業、事業だと思われていたこれらの事務機、生産機械、家電製品が、マイクロエレクトロニクスの発達によって、ほとんど同じもの(同根)になってくる。


ホームバンキングの時代

 最近の事務機をみると、たとえばパソコンにしてもCRT(ブラウン管)がついている。CRTは家庭のテレビと構造的には全く同じであるから、逆の考え方をすれば家庭のテレビを一つのスクリーンとして、そこにキーボードとプリンターとフロッピーのドライブをつけると、そのままパソコンになってしまうのである。また、ケーブルテレビを通じて情報を伝達するようになれば、たとえば住友銀行の○○支店から三和銀行の○○支店にお金を送りたいというようなことが、家庭の端末でできるようになってくる。

 現在日本で使われているはんこの代わりに、サインの二次微係数を取ってファクシミリで送り、本人に間違いないというような鑑識ができるようになると、銀行に行かないでもお金が送れるようになる。そういうことで、ホームバンキングということにもつながってくる。

 また現在、新聞は毎日配達されているが、これをファクシミリのようなもので各家庭に吐き出すことも、同様な装置で可能となる。要らなければ機械を止めてしまえばよい。手紙にしても、電話回線を通じてファクシミリで送られてくる。いわば電子新聞、電子郵便であるが、それらに使われる装置というのはほとんど同一のものである。

 そこでカギになってくるのは、インプット機械としての端末機、アウトプットの表示装置としてのCRT、それにハードコピーを必要とする場合のプリンターである。その場合のスクリーンは、ステレオ装置と組み合わせると音声多重のステレオ放送で、テレビを楽しむこともできるし、これからのオーディオビジュアルディスクのモニターとして使うこともできる。


業種領域革命

 このように事務機業界とか金融業などの異なった業界が、マイクロエレクトロニクス革命によって無限に結ばれてくる。しかも従来完全に異業種だと思われていたものが一つになってきている。こうなると、家電会社だからテレビを造っていればいいと思っていたのが、ある日突然そうではなくなってしまう。新聞社や放送局が家庭にそうしたサービスを提供するようになると、CRTスクリーンなどは、そのサービスに対する附属商品として売られるようになってくる。たとえば新聞を契約すると、スクリーンが自動的についてくるという契約形態もありうるわけである。

 いまアメリカでは、ケーブルテレビが全家庭の三〇%ぐらいに浸透してきている。このケーブルテレビ・ネットワークを支配する人は、将来、これまで述べてきたことのすべてを支配するのではないかということである。「ニューヨーク・タイムズ」をはじめ、有力放送局、映画会社、ATT、IBMといったところが、ケーブルテレビ会社を買収しようとしている。これは、ケーブルテレビで「風と共に去りぬ」を放映するといった生やさしい機能を狙ったものではなく、各家庭に同軸回線によって通じているネットワークを所有するということが、結局全部の情報サービス網を所有することになるのではないか――こういった思惑から、ケーブルテレビ会社の買収合戦が起こっているわけである。

 ここでは金融業、新聞業、出版業、放送業はじめ家電産業、さらに当然のことながらホームコンピュータといわれる現在の事務機会社のローエンドの部分に至るまで、すべて影響を受ける。これも相当大きな革命であり、どの程度までが、今後何年で結着がつくかは分からない。ここで申し上げたいのは、いま読者の属する会社の事業が仮に事務機メーカーであったとしても、あるいはステレオ販売であったとしても、そのことだけを考え、それをやっている競争相手だけを考えていたのでは、八〇年代後半の企業の安泰は望むべくもない、ということである。

 そこで必要となってくる要素技術というのは、自社とは別の業種の企業で、より資金力や研究開発力の強いところが開発してくれるかも知れない。となると自社内でそういうものを全部開発しようとして時間的に遅れるよりも、一歩早く応用に取り組んだ方が得だ、ということで、自社の研究開発体制やその他もろもろの仕組みを大きく変えていかなくてはならないということにもなる。


2 生産革命

急激な工数低減

 次に「生産革命」という点では、たとえばFMS(フレキシブル・マニュファクチャリング・システム)といった考え方がその一つである。こうしたFMSとかファクトリー・オートメーション(FA)の持っている経営的な意味合いは、要するに人間がいらなくなるために、損益分岐点が下げられるということである。

 このことの意味合いは非常に大きなものがあり、たとえば無人に近いような工場を作るということが仮に可能になってくると、現在の南北関係――つまり開発途上国と先進工業国の関係が難しくなってくる。

 現在、シンガポール、マレーシア、フィリピン、インドネシア、タイなどに対する日本からの投資は完全に冷え切っている。その一つの理由は、日本の三分の一、四分の一というこれらの国の低労働賃金がメリットを発揮しなくなっているからである。七〇年代に日本の先端企業がやってきたことは何かというと、労働総費用を下げるのではなく、工数を下げる、工数をなくしてしまうという方向への努力だったのである。たとえばテレビなどの工数をみると、七五年に要求されていた工数を一〇〇とすると、八〇年にはそれが五〇を割っている。つまり部品点数の削減が進み、ほとんどの会社で最近の五年以内に半数以下になっている。したがって品質は向上するし、組立工数の時間も減る。そうして減った組立工数のところに自動化装置を入れて、さらにマンパワーをマシーンに置き換えていく。マン・マシーンのインターフェースを、どんどんマシーンに置き換えてきているわけである。

 その結果、日本の強い産業のいわゆる直工費用は五%を割っている。わずか五%しか労働コストのないところで、その三分の一、すなわち一・五%の総費用を検約するために、たとえばマレーシアに組立工場をつくってみても、主要部品の大半は日本から出ていかないといけない。またマレーシアには市場がないから、それをアメリカに持っていくということになってくると、そこで十数%の輸送費用とか保険料がかかる。

 労働賃金が二五%、三〇%あった時の三分の一は七~八%になるから、そこでの節減効果は一七~一八%と、非常に大きかった。したがって労賃の安い国に立地するというのは意味があった。

 ところが現在の日本の主力企業は、石油危機以降、労働の占める割合そのものを下げることを強力に推進してきたために、労賃の安いところに立地するというメリットがほとんどなくなってしまった。これが日本企業がASEAN諸国その他のところに、直接進出を止めてしまった一番の大きな理由である。


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