【無料お試し読み】 マッキンゼーボーダレス時代の経営戦略 2015年新装版

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※この作品は1992年にプレジデント社より刊行されたものを基にデジタルリマスタリングした新装版「マッキンゼー ボーダーレス時代の経営戦略」です。

マッキンゼー社シカゴ事務所ディレクターJoel A. Bleekeによる、アメリカにおける規制緩和が企業に与える影響に関する論文を皮切りに、「多国籍企業の経営変革」「商品化実現力の向上に必要なこととは」「国境を越えたM&Aの鍵」「欧米企業の環境対策」といった“より大きな領域で競争する企業のための分析”が300ページを超えるボリュームで展開されます。


『マッキンゼーボーダレス時代の経営戦略 2015年新装版』第1章より


解説―アメリカ「規制緩和」の衝撃

規制緩和を勝ち抜く四つの条件

 一九八〇年代初頭から、アメリカではレーガンが、イギリスではサッチャーが、軌を一にして規制緩和に乗り出した。それから今日まで一〇年余。その間、マネジメント・コンサルタントとしてあらゆる業界を世界的に見てきたマッキンゼー社は、この規制緩和を総括する必要があると判断した。

 そこで、J・A・ブレーキーが中心となって「二〇〇二年のヨーロッパ──アメリカにおける規制緩和の教訓」と題された論文をまとめた。この章で紹介するのは、その抄訳である。

 筆者のJ・A・ブレーキーはマッキンゼー社ディレクターで、シカゴ事務所においてアメリカ国内企業のコンサルティングに当たる一方、世界各地の一〇〇名以上のスタッフが協力して企業の国際戦略を研究するインターナショナル・ストラテジー部門のアメリカ代表を務める。特に金融関係に詳しく、金融商品ごとの国際的なカップリング(連関性)に関する優れた論文を発表して注目されている。

 その研究成果を要約すると、次のような点があげられる。

 第一に、規制緩和はユーザー側に利益をもたらし、大半の企業が敗北した。

 第二に、昔からの弱者と新規参入の弱者が共に脱落した結果、寡占化がさらに進行して、生き残った勝者が寡占による利益を以前より享受できるようになった。

 第三に、儲からないユーザー、つまり弱者を企業が切り捨てるようになった。

 また、この論文から経営者が学ぶべき点は、「初めの五年間は特に価格戦略において柔軟な対応、つまり何としても価格競争に勝ち抜くことが必要である。その試練に耐えれば、その間に弱者は淘汰される。その後の五年間で、目標とした市場セグメントに合致した戦略転換を行なうべきだ──」ということである。

 生き残った企業は次の四つのタイプに分類できる。

 ①広い地域に対し、広範囲な製品やサービスを提供しうる大企業

 ②新規参入の当初は低コストを売り物にしてきたが、徐々に製品やターゲットとなる市場を限定し、差別化してきた企業

 ③高価格ではあっても高レベルのサービスを提供したり、限定されてはいるが、上級顧客に狙いを定めた企業

 ④スケール・メリットを生かし、多くの競争企業に設備・施設などの機能を提供することで、固定費をうまく分散した企業


日本の対応しだいで新たな摩擦も

 レーガンもサッチャーも、自国企業の活力強化を図るために規制緩和を行なった。だが、その陰には、対立する政党の支持基盤である組合を弱体化させることによって、政権基盤の安定を図ろうとする意図があったことも見逃せない。これは、中曽根行革が民営化という受け入れやすい言葉を使いながら、見事にJRなどの組合を弱体化させたことと軌を一にしている。

 歴史のある大企業や規制に守られている企業では、組合の力が強い。一方、新規参入企業は組合がないところがほとんど。新規に参入する企業の増大により、組合の強い企業ほど倒産の可能性が高まる。なぜならば、そのような企業は変化への対応力に乏しく、また従業員の数が多く、その平均年齢が高いため賃金水準も高く、コストの点で競争力が劣るからである。

 一方、多くの消費者にとっては、サービスの向上、料金の低下などで規制緩和のメリットを享受できる。そのため、規制緩和の政策は多くの国民の支持を受けた。

 国民を味方につけ、対立政党の基盤の弱体化を図ることに成功したのである。そのことはアメリカでは共和党、イギリスでは保守党の政権が長く続いている事実が証明している。

 だが、すべてが規制緩和のチャンピオンたるこの二人の思いどおりに運んだわけではない。国内的には対立政党の弱体化という目的を達したが、規制緩和により自国企業の経営内容が悪化し、海外企業に次々に買収されるという、思わぬ副産物を生む結果となったのである。

 規制緩和を行なった両国の企業の経営力は増大したが、大半の企業の財務状況は悪化した。他方、規制緩和を行なわなかった日本、ドイツ、スイスなどの企業は、規制で保護されているために国際的な経営力は劣るが、見かけ上の財務や経営実態は良好である。

 そのため、国際競争力で勝る経営力なき企業が、規制緩和で弱った経営力のある企業を金で買い漁る事態が起こったのである。この事態は規制緩和を他に先んじて実行したアメリカには新たな不公平と映り、この問題にアメリカの政府も企業トップも着目し始めたのである。

 九〇年二月八日と九日にニューヨークで、AT&T、ジョンソン&ジョンソン、ナビスコ、アメックスなどアメリカを代表する企業の会長と、アメリカ通商代表部のヒルズ代表など政府高官を招いて、マッキンゼー社主催による会議が開かれた。

 その会議の席上で本章の論文が発表されたわけだが、出席者は一様に内容の深刻さに衝撃を受けていた。良かれと思ってやった規制緩和が、必ずしも当初の目的を達していないばかりか、アメリカの国際競争力の弱体化の原因にさえなっている、という総括だったからである。

 J・A・ブレーキーの論考の全文は『ハーバード・ビジネス・レビュー』の一九九〇年九‐一〇月号に掲載された(ちなみに掲載時のタイトルは "Strategic Choices For Newly Opened")。この論文がアメリカ国内だけでなく、世界中、特に統合問題を抱えたヨーロッパに大きなインパクトを与えたことは想像に難くない。

 経済が国際的に連結の度を増している現在、規制緩和は一国だけで行なうべきではない。少なくとも先進工業国は、多国間での自由貿易問題を討議するウルグアイ・ラウンドにならった、規制緩和をめぐる話し合いの場を設けることが必要だ。

 国境なき経済というのは、やがて世界が同一の(あるいは公平な)経済ルールで運営されるところまで進むか、再びブロック化した閉鎖経済に戻るしかない。前者は日本企業の弱点を浮き彫りにするだろうし、後者は日本企業の市場を著しく狭くする。

 だから日本としても、この規制緩和の問題を避けて通ることは許されない。まず日本は、この論文を通してアメリカやイギリスの例に学ぶ必要がある。しかし、本書の内容を取り違えて、これを規制緩和を行なわない論拠にしてはならない。むしろ先例の研究により、この両国より上手に規制緩和を行なうべきだ。

 そのためにも、日本政府はわれわれの論考を熟読し、必要とあれば、マッキンゼー社のアメリカにおける産業ごとのデータベースを活用して、ユーザーにも消費者にもメリットをもたらし、かつ寡占化を進行させずに規制緩和を行なうべく、この日本でもただちに研究に着手すべきだ。また、日本の企業経営者も、この規制緩和への対応をおろそかにすべきではない。

 さもなくば現在、日米間で大きな懸案となっている構造協議をはるかに凌ぐ、深刻な問題となることは必至である。

(大前研一)


●抄訳―「規制緩和」で生き残った企業とその教訓

 この小論に述べられている所見は、八九年から一年間にわたりマッキンゼー社が行なった、アメリカの航空・長距離電話サービス・公衆通信サービス・私設電話交換機などの分野で実施されてきた規制緩和の経営上の影響に関する分析作業を、下敷きにしたものである。

 この小論で取り上げようとしている主要テーマは、(1)アメリカの規制緩和から、経営者は何を学ぶべきか、(2)生き残った企業の特徴は何か、そして(3)それらの企業の行動形態はいかなるものであったのか、などである。


規制緩和から学ぶべきもの

 アメリカにおける規制緩和は、以下の六つの重要な道標を指し示している。

 ①規制緩和により、新規参入者の数が膨大なものになる。航空業に例をとれば、規制緩和後の一〇年間に、二一五もの新しい航空会社が市場に参入してきている。規制緩和以前の四〇年間には、米連邦航空局が認可した新規参入企業は皆無であった。

このような経営環境下では、新規参入企業のみならず、すべての企業が困難な事態に直面せざるをえない。航空業の場合には、規制緩和以降の一〇年間に生き残った企業の数は、新規参入企業では三分の一以下であったが、驚くべきことに、既存企業でさえ四四%にすぎない。



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