【無料お試し読み】BBTリアルタイム・オンライン・ケーススタディ Vol.23

good.book発行書籍の中身をお見せします。興味を持っていただけましたら書籍版もよろしくお願いします。

※書籍版は下記リンクよりご覧ください。

本書掲載のケーススタディはビジネス・ブレークスルー大学(以下BBT大学)提供のReal Time Online Case Study(略称、RTOCS)を基に収録したものです。RTOCSとは実際の企業や団体を取り上げ、「誰も正解を知らない現在進行形の経営課題」に対し、「実践」と「議論」による徹底的な論理的考察を経ることで、企業が直面している「本質的問題」を明らかにし、「経営者の視点で意思決定」を行う教育メソッドです。


『BBTリアルタイム・オンライン・ケーススタディ Vol.23』CaseStudy1より


BBT-Analysis:大前研一はこう考える

〜もしも私が次期イギリス首相だったら〜

※本解説は2016/7/3 BBT放送のRTOCS®を基に編集・収録しています。

大前の考える今回のケースにおける課題とは

 2016年6月、イギリスは国民投票でEUからの離脱を選択した。離脱を支持したのは主として高齢者や低所得層であり、若い世代や産業界には残留支持が多かった。第二次世界大戦後、低迷していたイギリス経済がここまで持ち直したのは、EUに加盟しながら通貨や移動の独立性を保ち、対内投資の呼び込みに成功したことが大きな要因である。ドイツをはじめとするEU加盟国は、イギリスに対し、EU離脱後はこれまでのような「いいとこ取り」は許さないという厳しい姿勢を明らかにしている。このような状況下で、今後いかにして経済成長を続けることができるかが大きな課題となる。


イギリスが国民投票でEU離脱を決定した背景と影響

#イギリスの離脱決定に対し、厳しい姿勢で臨むEU

 6月23日、イギリスでEU離脱の是非を問う国民投票が実施され、イギリス国民はEUからの離脱を選択しました。残留派を主導していたキャメロン首相の後任を選ぶ与党・保守党の党首選挙を経て7月13日にテリーザ・メイ前内務大臣が新首相に就任しました。

 一方、EUは6月28日に開いた首脳会談で、イギリスの内政混迷に配慮し、離脱をめぐる交渉を9月以降に先送りすることを容認しました。また、6月29日の首脳会談では、「欧州の単一市場に参加するには、労働者の移動の自由を認める必要がある」という原則を確認しました。これはEU離脱により移民の流入を抑えつつ、巨大市場との自由貿易を維持したいイギリスに対し、「いいとこ取り」を認めない立場を示したものです。


#離脱決定後、アイルランドのパスポートを取得したいイギリス人が殺到

 また、アイルランドの外務省は6月27日、アイルランドのパスポートを取得するため、ロンドンのアイルランド総領事や北アイルランドの郵便局にイギリス人が押し寄せていると発表しました。通常200件程度だった1日の申請処理件数が4,000件を超え、郵便局では申請書が品切れになっているそうです。

 なぜこのようなことが起こるのか、背景を説明していきます。EUでは1993年発効のマーストリヒト条約において「EU市民」という概念を導入し、その市民権を定めています(図-1)。EU市民権の最も代表的なものは、「EU域内における移動・居住・就労の自由」です。この就労の自由には医療や教育などの公共サービスや一部の公務員も含まれます。他にも、「EU域内において医療・社会保障・社会扶助を受ける権利」「ストライキを行う権利」「欧州議会や居住国の市町村議会への参政権」などがあります。イギリスがEUから離脱するということは、イギリス国民がEU市民としてのこれらの権利を失うということです。

 イギリスとアイルランドの結びつきという意味で言えば、イギリス人とアイルランド人の夫婦は多いですし、北アイルランドに住んでいる人の中には、アイルランドに出自を持つ人が多いのです。アイルランド生まれ、もしくは両親か祖父母のどちらかがアイルランド人であれば、イギリス人はアイルランドのパスポートを取得することができます。また、北アイルランドの住民は、アイルランドとイギリス、両方のパスポートを保有することが可能です。

 アイルランドがEUを離脱することはまず考えられないので、国民投票の結果を受け、イギリスの離脱後もEUの恩恵を享受したいイギリス人が、2つの国のパスポートを持っておこうと動き始めているのです。

 イギリスのEU離脱は政治や経済のみならず、多くのイギリス人に個人的なレベルでも影響を与えているのです。


#離脱賛成派が多いイングランドの中でも、ロンドン市民は離脱に反対

 イギリスは正式名称を「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」といい、イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドの4つの王国の連合国家として成立、その後、1922年に南アイルランドが分離し現在に至っています(図-2)。各地域の人口を見ると、北アイルランドの人口が約185万人、ウェールズが約310万人、スコットランドは約537万人、イングランドが約5,478万人です。イングランド地域は人口の84%、GDPの87%を占めています。参考までに、首都ロンドンの人口が約854万人、GDPはイギリス全体の23%にあたる4,835億ドルです。

 地域ごとに今回の国民投票の結果を振り返ってみると、まずイングランド、ウェールズではEU離脱派が過半数を占めています。一方、北アイルランドやスコットランドは残留派が多いです。離脱派の多いイングランドの中でも、ロンドンとその周辺地域は残留派が多数という状況でした(図-3)。

#EU離脱を支持したのは失業者、低所得層、年金世代

 国民投票の結果を、年齢別に示したのが図-4のグラフです。若い世代ほど残留派が多く、高齢になるほど離脱派の割合が多くなっています。EU創設を定めたマーストリヒト条約発効の1993年に生まれた若者は現在20代前半で、彼らにとってはEU加盟国であるイギリスという状況が当たり前であり、離脱はEU域内における就業機会の逸失などマイナス面の影響が大きくなります。一方で、既に国内で社会的地位を築いている中・高齢層は、EU域内からの移民流入によるデメリットを感じている世代です。

 国民投票は数で勝る中・高齢層の民意が反映される結果となりましたが、この状況を知った高齢者の中には、若者の将来の選択肢を自分たちが狭めてしまったことを反省している人も少なくないと言われています。

 イギリス産業界を見ると、EU離脱を支持している業界団体はありません。小規模企業連盟(FSB)が唯一、離脱派と残留派が拮抗しているだけで、他の業界団体は残留派が離脱派を大きく上回っています。また、図-5に示した世論調査の結果からも、EU加盟の恩恵を受けているのは大企業や金融業界であり、小規模企業や低所得層、年金世代が損をしているというイギリス国民の実感が分かります。この図で「負け組」とされる人々が、離脱派の中心になったのです。

 




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