【無料お試し読み】変われる会社の条件 変われない会社の弱点

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『変われる会社の条件 変われない会社の弱点』 巻頭特別インタビュー 小室淑恵氏に聞く より



日本が他国に買われないために、企業と国が決断すべきこと


話し手:小室淑恵氏(株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長)

インタビュアー:森戸裕一(JASISA/一般社団法人 日本中小企業情報化支援協議会)

 少子高齢化が進む中、日本社会全体の労働力不足や企業の生産性低下、それに伴う日本人の働き方の見直しが急務となっている。この課題に国や企業はどう対峙していけばよいのか? その課題解決の糸口を探るため、多くの企業や組織にワーク・ライフ・バランスに関するコンサルティングを提供する株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵氏にお話をうかがった。内閣府「仕事と生活の調和連携推進・評価部会」委員など複数の公務も歴任してきた小室氏ならではの、長期的かつ多角的視点に立った見解を、ぜひこれからのワークスタイル変革の参考にしていただきたい。

それをやらずに勝てるのか! という発想を捨てましょう

森戸:最初にうかがいたいのは、中小企業における働き方、ワークスタイルの変革についてです。中小企業では少ない人数で分業せずに一丸となって働くことが多く、なかなか旧来の働き方を変えることができないように思います。例えば社長が帰るまで社員もずっとそばにいないと仕事が回らないといった状況にも陥りがちです。このあたりはどうお考えですか?

小室:まさにそこが中小企業の問題、課題だと思います。本当は、社員数の少ない小規模の会社だからこそ、リーダーの決断ひとつで社員はいくらでも柔軟に働けるようになるはずなんです。

弊社が以前コンサルティングした三重県の企業さんで、中部システムセンターという素晴らしい会社があります。この会社はすごいワークスタイル変革をしたのですが、一番の肝は社長が一気に社員へ仕事の権限委譲をしたことです。以前は社長がほとんどすべての案件の決裁をしていて、それはそれでよかった面もあったのですが、やはり重層構造になってしまい、なかなか会社全体の生産性が上がらないという問題がありました。ところが仕事を社員に任せて会社全体の働き方を改善した結果、生産性が115%までアップしたのです。また、こうした取り組みが評価されて、今年はホワイト企業大賞西日本部門を受賞しました。

こうした例からも分かるように、社長や経営層から社員に権限委譲して属人化を排除できさえすれば、中小企業ほどワークスタイル変革の成果が高く出るところはないのではと思います。

森戸:そうですね。中小企業でもトップの決断ひとつで長時間労働を劇的に減らしながらも業績をアップするということはできるはずですよね。

小室:本当にそう思います。朝早くから夜は遅くまで働いて、深夜までお客さんを接待して、というスタイルでやらないと勝てない、と思い込んでいる中小企業経営者がまだまだたくさんいます。逆にそういった時間を使った結果、自らの技術を磨く時間がなくなり、結局業績が落ち込むという本末転倒に陥っている会社が多いですね。ほとんどの社長が「それをやらなくて勝てると思っているのか。仕事を甘く見るな!」とおっしゃいますが、長時間労働は「勝つための手段」ではなく、「負けている原因」なのです。

森戸:確かに、イノベーティブな仕事をしたい、新しい商品開発をしたいけれど忙しくてなかなかできないという中小企業さんは多いですよね。だから昔取った杵柄で、「うちも昔はすごい物を作ったんだ!」と言って延々と同じ物を売り続けている。でも本当はITを活用して今の時間の使い方を変えて、空いた時間をもっとイノベーティブな仕事に割くことが重要だと思います。

小室:弊社がコンサルティングする時は、相手先の企業のチームごとに「自分たちの本当の理想の時間の使い方は、どんな形なのか?」ということを最初に考えていただきます。すると皆さん「本当はこういう時間の使い方がしたい」という明確な考えをお持ちなんですよね。

例えば「うちは企画部なのに、時間の8割は会議と問い合わせ対応に追われているんです」と言う。そこで、本当は企画に時間の何割を使いたいんですか? と聞くと、企画にこれくらいの時間、企画を考えるためのインプットをしたいから異業種交流会などに出たり買い物したりにこれくらいの時間を使いたいと言う。自分の本来のミッションにシンプルに向き合った時の、本来あるべき時間配分というのを聞くと、皆さんちゃんとご自身で分かっているんですよね。


家で仕事をするのは子どもに悪影響?

森戸:私が今、行政や大手企業とタイムマネジメントの話をしていると、残業=悪、仕事を家に持ち帰ってはいけないよね、という話になって、仕事をし過ぎることは悪いことだ、といった考え方が多いように感じるのですが、やはりワークとライフ(プライベートの時間)を明確に切り分けることは重要だとお考えですか?

小室:時間や場所をもっと柔軟に働けるようになれば、仕事を辞めなくて済む人は多いので、もっと職場に縛り付けられない働き方は推進されるべきですね。一方で、「絶対的に仕事をしないほうが良い時間帯」というのがあると思います。家に帰って子どもにご飯を食べさせて、その後すぐにパソコンに向かって仕事している、という状態に陥っているケースをたくさん見てきました。会社では短時間勤務という扱いになっているので、本来ならば5時で業務終了しているはずですから帰宅後の仕事は一円の給与にもなっていません。

なぜそうなってしまうのかというと、その人の定時後もどんどんメールが届き、今はパソコンやスマホさえあればどこにいてもそれが見られてしまうからです。他の社員が就業時間後にどんどん仕事を進めているのをチャットで見ると、自分もそこに乗っかっていかないと遅れてしまうと思ってしまう。私も仕事やっていますよ、今もオンライン状態ですよ、という姿勢を示していかないとキャリアから弾き出されてしまう、という強い不安を持っているんです。

しかし親が目の前にいるのに子どものことを全く見ていない、ということになるので、家に早く帰ったことに何の意味もないどころか、むしろ子どもを傷つける時間になってしまっている。仕事にデッドラインがない、仕事のオンライン状態がずっと続くというのは本当によくない状況です。

育児や介護の理由で、いわゆる就業時間通りに働けない人も増えていますので、一人一人の仕事の仕方というのは朝型、夜型など柔軟性もある程度必要ですし、他の人が働いていない時間に働く権利も大切です。しかし、相手が仕事をしていない時間に無節操にメールやメッセージを送りつけて、本人にそのつもりはなくても、相手に何か返答を求めたりしているかのように感じさせるのはよくありません。皆、ある時間を過ぎたら情報から離れて集中して家族と向き合う時間が保証されているべきです。弊社では、育児や介護理由で働く時間は人によってずれていますが、その時間働いていない人の聖域は守る、というルールを導入しています。

今、ドイツなどでは夜間にメールサーバーを止めてしまうという試行を始めた会社があります。フォルクスワーゲンなどは、夜の特定の時間帯に送信されたメールはサーバーがエラーとして送り返して自動的に削除してしまう。日本もそうした取り組みを学んで、現代の新しい働き方に合わせた新しいルールを作っていくことが大事なのだと思います。

森戸:そうですね。日本人は基本的に真面目ですからね。欧米ではプライベートはプライベートだと完全に割り切ってしまいますが、日本人はそれができない。

小室:そのあたりの考え方は全く違いますね。欧米の人は有給休暇を100パーセント消化しますからね。仕事を休むということにすごく高い優先順位を置いている人たちと日本人の考え方は根本的に異なります。だから日本では欧米と同じルールというわけにはいかないんです。日本人の気質に合わせた日本独自のルールを作らないと駄目だと思います。


本業と副業は相乗効果が大事

森戸:本書の本編でもご紹介しているサイボウズさんなどは、会社以外の副業をどんどんやりなさいと副業推進を行っていますが、副業をすることについてはどうお考えですか?

小室:これは本当に多くの企業がこれから考えていく必要がある課題ですね。

私が2年前に新潟で講演した時、地元の中小企業の社長さんが感動してくださって、その場で「うちも残業をゼロにする!」と社員に宣言しました。そして先日その社長さんに2年振りにお会いしたら「うちはこの2年で、ついに残業ゼロを達成しました」と。「でも想定外のことが起こって困っているんです」と言うんです。聞くと、社員が副業したいと言い出して困っていると。どの会社でも残業ゼロを実践すると、往々にしてそういう問題が出てくるようです。

その原因は主に二つあります。一つは「残業がなくなって収入が減ってしまったから副業したい」という発想。もう一つは「労働時間が短くなった分、自分自身の成長感がなくなった。もっと自分を成長させたい」という発想です。

まず「収入が減った」という社員に対しては、残業を減らして生産性は上がっているわけなので、会社としてベースアップを図るなど、以前よりも高い水準でしっかり報酬を支払うべきです。残業を減らしたことで、いい人材が定着して高い生産性で業績を上げることができた。会社としてはそれが最大の成果なので、残業代を削減したという目の前の細かい成果を取るのではなく、その浮いた残業代はしっかり還元していくことが重要です。

次に二つ目の成長感の欠如の話ですが、長時間労働という負荷をかけないと自分は成長していないような気がする、という人が特に若い人にはたくさんいます。何か空白の時間が生まれてしまうと、そこが自分の停滞時間だと思ってしまうのです。でも本当は、限られた労働時間内で成果を出して、そこで生み出した時間をどう成長のための勉強や人脈形成に使うかが重要です。また、その時間をどう使うかについて上司と本人の間でコミュニケーションがきちんととれていないと、会社が望まない方向に走っていくことが多いようです。ただ飲みに行くだけ、パチンコするだけ、本業とあまり関係ない副業にばかり熱心になってしまうという人が増えてしまいます。

大事なのは、上司が部下に対する期待感を明確に示すことです。つまり「私があなたの10年、20年先のキャリアについてどういう期待を持っているか。」ということを面談などの場でしっかりフィードバックすることです。「こんなところを評価している、こんな能力はより伸ばしてほしいと思っている」というようなことを伝えることで、本人は「会社や上司が自分にそのように期待してくれているのであれば、浮いた時間をもっと自己研鑚や人脈をつくることに使いたい、退社後の時間は暇なのではなく、逆にやらなければいけないことが山積みだ」と思うようになるのです。

そうしたコミュニケーションが取れている企業にいて副業している人は、やはり自分の本業に対してプラスの効果を与える選択をしています。「この仕事だけをしていたのではこういうことが分からなくなるから、別の仕事をやることによって本業でもより成果を出そう」とか「この仕事(本業)で定年までちゃんと働きたいと思っているからこそ、副業は定年後の準備としてしっかりしておこう」といった発想です。

つまり、副業をするかどうかが問題なのではなくて、副業というものが会社や自分の長期のキャリアにとってプラスとなるのか、翌日疲れて会社に来て仕事にならないというマイナスの形になってしまうのか、というところが重要なんです。

森戸:そうですね。あとは「副業をOKにしたのはいいけれど、就業時間中にあいつ別のことやってるよね、というのが何となく周囲に分かると、チームとしての雰囲気が悪くなる」という話もよく聞きますね。

小室:周りに悪影響を与えないというのは最低限守るべきルールですよね。本業にコミットしている余裕がなくなる、気が散ってくるというのは非常にまずい状況です。ちなみに弊社は創業した時からずっと副業可なんですが、未だに副業をしている人はいません。わが社は残業禁止の会社なので、8時間(1日の基本就業時間)で仕事をやり切ると、一分一秒が全力投球なので本当に疲れます。18時以降に副業出来るエネルギーは残らないですね(笑)。また、高い付加価値を出し続けることで、残業ゼロでも基本の報酬が生活できない金額にはならない設計になっています。


地方移住のキーポイントは「教育」と「女性の仕事」

森戸:今、地方創生担当相の石破茂さんが一生懸命、地方創生の推進をされています。地方創生に取り組んでおられる方は皆「東京の人たちをもっと地方に!」と言うのですが、やはり生活基盤が東京にある人たちはそんなに簡単に地方に移住して働くことはできませんよね。どうしたらいいんでしょうか?

小室:やはり地方に移住しようと思った時に重視するのは、子どもの教育です。それは地方がこれから最も力を入れるべき点であり、地方はもっと東京と一線を画した新しい教育をすることが重要になってくると思いますね。私は中央教育審議会の委員でもあるのですが、本当にその辺には問題意識を持っています。

例えば何故猛暑の日も極寒の日も校庭に子どもたちを集合させて朝礼をやるのでしょうか? あれは昔、いわゆる軍隊に送り込む人材をつくっていた頃の習慣です。将来軍隊に送り込まないといけないとなると個性は認めず嫌なことにも慣れさせていく必要がありました。今は、もはや個性を伸ばし、人と違う発想が出来る人材をどれだけ増やせるかが重要であり、日本企業が今後勝っていくために必要なのに、教育だけが取り残されて、個性的な子どもほど否定されて育っています。

地方が国や中央に反抗し、地方ならではの自由な教育というものを推進していけば、それに魅力を感じて自分の子育ての場は地方がいいと考え、地方移住する人がもっと増えると思います。

地方移住にとってもう一つ重要なのが女性の就業場所の問題です。多くの場合、男性が転勤などで移住を決めますが、その時に妻の就業が問題になります。女性がリスペクトされながら仕事ができる環境というのが、地方にはまだまだ少ないので、それが原因でどうしても地方移住に消極的になる。地方に行ったら自分のやりたい仕事ができない、仕事のレベルが落ちると思うので、女性が一緒に地方に行きたがらず、一家での移住への合意が得られない、ということになるのです。

これから地方は、いかに女性が本当に輝いて仕事ができる場所になれるか、子どもにとって自由で新しくクリエイティブな教育の場所になれるかが重要になってきます。それこそITを教える授業が毎日1時間くらいあってもいいと思います。それくらい斬新なカリキュラムの教育をどれだけ地方が打ち出せるかによって、地方移住というものが万人にとって現実的になってくるか決まるのだと思います。


労働時間を減らすと出生率が伸びる!?

森戸:小室さんがこれまで長年にわたって企業のコンサルティングをされてきて感じる、働き方が変わったことによる〝業績や生産性のアップ〟以外の成果とは何ですか?

小室:私たちがこれまでコンサルティングをやってきた企業さんで如実に出てきた成果としては、「労働時間を減らした企業では、出生率が伸びる」ということです。こんなことを言うと驚かれるかもしれませんが、これはデータ的な裏付けもあるので確信を持って言えることです。国はそのあたりの統計を取っていませんし、そもそもそういった観点も持っていないので、国の白書などからはそうしたデータは出てこないと思いますが、私たちがコンサルティングした結果では、明らかなデータが出ていますし、最近はこれがこの国の少子化解決策につながるのでは、と感じています。

労働時間の短縮によって企業内出生率が上がるわけですから、これを国規模でやれば国としての出生率も上がってきて、経済を上向かせることもできるはずです。働く時間を減らすことと経済を上向かせることは相反するように思っている人も多いでしょうが、労働時間に上限を設けると業績も上がって出生率も上がるということが明確に実証できている。そこで私も最近政府に対して、これは国の枠組みとして真剣に考えたほうがいいですよ、という働きかけをしているんです。働きかけをしてきて、やっとここ数年で政府の少子化対策に対する姿勢が驚くほど前向きに変わりました。



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