【無料お試し読み】竹中工務店における建築技術者育成の取り組み(KAIKAケーススタディ)

―体験型研修センター「想」の事例から―

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1|解説編|竹中工務店における建築技術者育成の取り組み


本ケースの課題

・竹中工務店が研修センター「想」の設立を通じて享受したメリットは何かを考えなさい。

・研修センター「想」の取り組みにおける今後の課題は何かを考えなさい。

・あなたが所属する産業ないし企業において、研修センター「想」のような研修所を設立するとすれば、どのような施設を設けることが期待されるかを考えなさい。


1.建設産業の特徴

1.1 建設産業の産業特性

 本ケースは竹中工務店(以下、竹中と略)における建築技術者向け研修センターについて記述することを目的とする が、まずは竹中が属する産業である建設産業(以下、本文中では「建設業」と略)の特徴について整理しておきたい。

 まずは図表1に従って建設業の特徴を確認する。建設業は巨大な産業であり、日本経済のなかできわめて大きな位置を占めている。平成27年度の建設投資額(見込み)は約50兆円9500億円であり、平成28年度はやや増加して51兆7,700億円となる見通しである。膨大な額ではあるものの、建設投資額はバブル崩壊に伴い1993年のピーク時で約84兆円であったことからすればずいぶんの落ち込みである。ボトムであった2011年度には約41兆円まで落ち込み、その後やや増加に転じてはいるが、大幅な好転はもはや見られなくなっている(国土交通省「建設投資見通し」)。

 建設投資額の対GDP比は、平成27年度の名目GDPが500.6兆円であるから(内閣府「国民経済計算」)、その8%強に達する。これは欧米先進国に比しても高い数値である。建設業就業者は平成27年で約500万人となっており、同年の全産業就業者数が6,376万人であるから、全産業総数の8%弱を占める。ただ、就業者数のピークであった平成9年には685万人であったから、ピーク時比で約27%も建設業就業者が減少したことになる。もちろん、建設業に間接的にかかわりを持つ企業の労働者を含めば、より高い数値となるが、団塊世代の大量定年による労働者不足もあいまって、建設業就業者数は減少の一途をたどっていることは間違いない。さらに、15歳~24歳層の若年就業者数の大幅な減少が見られる一方、65歳以上の高齢層が厚みを増しており、建設業就業者の高齢化が着実に進行している(総務省「労働力調査」)。

 建設業のもう一つの特徴は、業者数がはなはだしく多いことである。建設許可を受けている業者数は平成26年時点で47万3千業者である。これもピーク時であった平成11年の60万業者から比べれば21.3%の減少となっている(国土交通省「建設業許可業者数調査」)。なお業者に占める小規模事業者が多いことが建設業の特徴であり、一業者あたりの平均従業員数は平成24年で5.2人となっているなど(総務省・経済産業省「平成24年度経済センサス―活動調査」)、圧倒的多数の業者が小企業であることが分かる。もちろん、建設業にも大企業は存在するのであり、いわゆる5大スーパーゼネコン はすべて、年度に応じて変動はあるものの1兆円を超える売り上げをあげ、1万人程度(単体ではそれほどでなくとも、企業グループとしての場合も含める)の従業員を抱えている。

図表1 建設業における投資額・就業者数・事業所数の推移

 次に市場構造について検討しよう。建設業には業者数が多く存在することから、一見過当競争が展開されているかに見えるが、言われるほどには倒産件数は少なく過当競争ではないとされる(金子編、1999)。かといって、スーパーゼネコンが大きなシェアを持つがゆえに産業集中度が高くなり、市場メカニズムが機能していないわけでもない。スーパーゼネコン上位4社のシェア和(累積集中度)は、2010年から2012年のデータを用いて計算すると10.3%であり(岩松、2013)、市場集中度は低いからである。建設業は技術的な観点から見れば参入障壁が低く、典型的な競争市場であるとされる。競争市場であるために各企業の利益率は低くなりがちである。加えて、建設業は請負による一品生産であるがゆえに利益率の低い産業であり、関連産業である不動産業に比べ著しく利益率が低いことが指摘される(野村総合研究所、2008)。かつバブル崩壊以降、企業の戦略不全が一部の設備工事企業を除いて発生しているなど低迷産業であるとの指摘もある(泉、2014)。さらに、負債比率の高さによる金利支払いが、ゼネコンの財務体質を悪化させているという見解もある(松村、2002)。経営効率を高めることにより利益率を向上させることが求められている。

 建設業のいまひとつの重要な特徴は、産業内における企業間分業が細分化されており、工程ごとの分業生産が行なわれることである。換言すれば、建設業は総合加工産業なのであり、かつその工程が企業ごとに分割されるところに特徴がある。たとえば、工事が完成するまでには、設計者、ゼネコン、専門工事業者(とび、土木、電気工事、塗装などのいわゆる下請企業で、許可のうえでは29業種 に分類されている)、資材業者(セメント、鉄骨などを供給する)、機械リース業者(建設作業の際に使用するブルドーザーなどをリースする)など、きわめて多くの企業が共同作業を行なっており、複雑なネットワークを形成している。29もの業種に分かれているのは、各業種が技術面および機能面でかなり異質であるためで、全業種の専門工事を一社で内製することは不可能に近いためである。

 これら多数の企業ネットワークを束ねる結節点となっているのがゼネコンである。ここでゼネコンからの視点で考えてみると、ゼネコンが工事の全工程を担当するのではなく、かなりの部分をいわゆる下請企業に外注していることが分かる。実際に、一部上場のゼネコンを対象とした調査では、完成工事費に占める外注費の割合は2012年で66%を超えるとされ(新川、2013)、製造業と比較しても外注比率が高い。この外注依存の関係から、頂点にあるゼネコンの裾野に多くの中小下請企業が従属するピラミッド型構造(大企業による中小企業の搾取・抑圧関係)として、建設業を捕捉することが多い(渡辺、2007、125頁)。

 その他の産業特性としては、発注者第一主義であり、単品受注生産であるという点を挙げることができる。発注者第一主義とは顧客のニーズに合った製品を提供することであり建設業に限った特性ではないが、それを踏まえての単品受注生産が大きな特徴である。つまり、個別顧客の注文に応じた建設を行なうことが求められ、顧客ニーズを細部まで読み取ったうえでのテイラーメード生産がつねに必要ということである。

 発注者に関して言えば、他産業と決定的に異なり、政府(国、都道府県、市町村)が発注者になることが多い、つまり公共工事の比重が高いことも建設業固有の特徴である(渡辺、2007)。これにつけこんだ業者が談合を繰り返し、受注価格を吊り上げ、税金が無駄遣いされるという弊害がしばしば指摘されてきたのである。公共工事と談合とがあいまって、建設業のイメージを低下させる大きな一因となってきたのである。

1.2 建設産業における人的資源の問題

 建設工事には必然的に労働者による労働力提供が必要なため、建設業は他産業に比して労働集約型産業に位置づけられる。上記のような複雑な分業体制のなかで、様々な建設技能者(現場作業労働者)が働いている。とび、大工、左官といったように彼(女)らが担当する職務に応じて建設技能者が区分される (図表2)。建設業に従事しているのは、建設技能者のみならず専門技術者や事務員、販売員、管理者といったように、ホワイトカラー層に近い労働者も含まれる 。

図表2 建設技能者の区分および職務内容

 建設業のなかで多数を占める労働者は建設技能者(現場作業者)である。彼らの働き方はどうなっているか。現場作業については屋外での肉体作業であり、高所での作業を伴い、かつ力を要する職務が中心である。ゆえに、「きつい」「危険」「汚い」という、いわゆる「3K」(これに加え「くさい」「かっこ悪い」を含め「5K」とさえ言われることもある)というイメージが定着してしまっている(川喜多・中村・佐藤、1990)。こうした作業条件のためか女性労働者が少ないことが特徴である。

 建設業では2014年時点で就業者の67.5%が建設技能者であり(総務省「労働力調査」)、労働集約型産業であることが改めてうかがえる。また、建設業には小規模の事業所が多いことを先に見たが、建設業で働く人々の圧倒的多数は小規模企業の従業員か個人業主であるとされる(長門、2002;渡辺、2007)。また、金子編(1999)によれば、入職率、転職率、離職率のすべてについて建設業が他産業を上回っており、とりわけ高齢者の入職率が他産業に比べて高いとされるなど、建設業における雇用の流動性は高いことが示されている。

 次いで、建設業の労働条件についてみていく。しばしばいわれるように、建設技能者の仕事が5Kといわれるのは本当だろうか。まず、建設業は「天気産業」と称される。作業が野外で行なわれ、工事が天候に左右されやすく(横山、1997)、時として過酷な作業環境となる。もちろん天候条件によって収益が変動する産業は、エアコンや清涼飲料など様々であり、建設業に限ったことではないが、天候が販売過程ではなく生産過程に大きな影響を及ぼす点が異なる。雨天が続くと手待ち時間が増えるとともに工事に遅延が発生することもある。工期の厳守は絶対であるから、遅延が続くと工期後半にしわ寄せが出て、休暇が思うように取れないなど労働者への負担が重くなる。さらに、猛暑が続くと炎天下での労働の連続となり、労働者への負担が大きくなることも、決して無視でない特徴であろう。

 また、建設業では労働災害がつきものである。厚生労働省が2015年に実施した「平成27年労働災害動向調査」によれば、建設業 の労働災害度数率(100万延べ実労働時間当たりの労働災害による死傷者数)は0.92と、製造業の1.06に比しても労災の頻度は低い。ただし、この数値をもって建設業が安全性の高い産業であるとは到底いえない。労働災害強度率(1,000延べ実労働時間当たりの延べ労働損失日数)は0.21で、製造業の0.06に比してずいぶんと高い値となっている。労災の頻度が比較的低くとも一度発生すると相当な損失日数をもたらすことが分かる。なお、強度率が最も高い産業は生活関連サービス業・娯楽業の0.31であり、建設業は調査対象産業のなかでこれに次いで高い強度率である。このような危険リスクの高さにもかかわらず、建設技能者はふつうの家庭生活を営むに十分な賃金も与えられていないといわれる(建設人社編、2010)。建設業における入職希望者増加および労働者定着を促すためには、さらなる賃上げも必要である。

 今後の建設業は、作業条件ないし労働条件の改善を図ると同時に、建設技能者の社会的地位を高めていくことが求められる 。それに加えて個々の企業は、建設業に対する明るく魅力的なイメージをみずから発信し、CSR施策にも積極的に取り組む必要がある(柳田、2015)。とりわけ前者の問題、建設技能者への志願者増加と彼(女)らの定着を促すことが、建設業の維持および存続のためには重要である。そのためには、建設技能者への人材育成機会の提供を充実させることが求められる。そして、その人材育成を行う主体は企業でなくてはならない。なぜなら、建設業における技能形成には現場での職務経験が必要であり、企業内での時間をかけたOJTが必要とされるためである(川喜多・中村・佐藤、1990)。学校も人材育成を担う重要な主体であるけれども、現場経験を学校で積むことは難しい。学校で学んだことは、建設業ではすぐには通用しないと言われるのは、そのためである。

 建設業においては現場主義のOJTが人材育成の中心であり 、企業内人材育成の体系化が要請されるのである。上述のとおり、建設業における労働者数は徐々に減少しており今後もさらなる減少が予想されることに加え、労働者の高齢化も進みつつある。こうしたなかで、現在現場のなかに埋め込まれている暗黙知や技能をいかに若手に伝承していくかが、建設業における喫緊の課題となっている。

 以上が建設業の特徴に関する整理であり、そこで生じている問題もある程度は確認できたと思う。とりわけ最後に挙げた人材育成の問題は焦眉の課題であるが、建設業のなかで体系的な取り組みはこれまでほとんど見られなかった。このような状況のなか、竹中が社内に研修センターを設立し、独自の研修プログラムを提供し始めたことは注目に値する。このケースは、建築技術者の人材育成に関する取り組みが中心であることに加え、研修プログラムの社外提供を通じての建設業全体イメージの向上にも資するものとなっている。以下ではこのケースについての議論を進めるにあたり、まずは竹中の企業プロフィールを概括する。次いで竹中を取り巻く外部環境の変化についてまとめ、環境変化が研修センターの設立を後押ししたことを確認する。その後、研修センター設立までの過程を整理したうえで、研修センターの設備内容および研修内容、そして研修プログラムがもたらした成果について確認する。最後に、研修センターの今後の取り組みについて、竹中に認識されている課題をいくつか挙げて結語とする。

図表1

図表2


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