【無料お試し読み】 大前研一 世界を知る6つの特別講義
good.book発行書籍の中身をお見せします。興味を持っていただけましたら書籍版もよろしくお願いします。
※書籍版は下記リンクよりご覧ください。
圧倒的ボリュームでビジネスモデル・経済・テクノロジー・人材教育…を経営視点から語りつくす特別講義決定版。
大前研一が主宰する企業経営者向け勉強会「向研会(株式会社ビジネス・ブレークスルー運営)」の講義を400ページを超えるボリュームで書籍化。
各種メディア・シンクタンクによるデータに加え、自身の海外視察を含めた独自ソースから読み解く「世界と日本は今どうなっているのか」決定版。「ビジネスモデル」「経済」「テクノロジー」「教育」「市場」「戦略」「マーケティング」…と、ビジネスを開拓しつづけるための知識・ベストプラクティスを網羅しています。
『大前研一 世界を知る6つの特別講義』Chapter 1より
Chapter 1 テクノロジーの進化がもたらしたもの
ユビキタスとフリクションフリーの実現
●いつでも、どこでも、誰とでも
世界の歴史を振り返ると、最初の交通手段は、馬でした。そのあと鉄道が出てきて、かなり自由に早く目的地まで行けるようになった。次に自動車が発明されて、もっと自由にいろいろな所に行けるようになった。やがて飛行機の出現によって、今度は地上の法則も飛ばして、世界中を移動できるようになった。こうした歴史の延長線上に現在のネット社会があるわけです。
私は今から20年前の1995年に『インターネット革命』という本をプレジデント社から出したのですが、その頃、私のセミナーに米国のロータスというソフトウェア会社の元CEOのジム・マンジ氏を招きました。そこでグループウェアやコンピュータネットワークのことを紹介したのです。
そのセミナーを聴いていた多くの人が「大前さん、われわれが生きている間に、そんな世界は来ませんよね」と言っていました。ところが、1990年代後半あたりからあっという間にコンピュータネットワークの社会ができあがってしまった。みんな、えっこれってなんなんだ、という感じです。
当時、多くの企業は、そんな時代が来るのは分かっちゃいるけれど、まだ先だろうと思っていたのです。さらに大きなコンピュータネットワークの革命が、この10年、とりわけこの5年くらいの間に起こってきています。そして、「そんなものはまだ先だ」と言っていた人たちは、みんな足元をすくわれてしまった。
インターネットの黎明期、世界の多くの学者たちは「インターネットの世界は、ユビキタスの世界なんだ」と言っていました。
ユビキタスというのは当時聞き慣れない言葉で、みんな「それって何なんだ?」と言っていたのですが、「いつでもどこでも、誰とでも、どこにでもつながっている」という概念です。中世の時代に、エーテル伝説というのがありました。全ての空間をエーテルという物質が満たしていて、そのエーテルが光などを伝達しているという説です。それと似たような状態を表すワードとして、ユビキタスという言葉が使われ始めたのです。
今の世界を見ると、ほとんどの人はユビキタスを享受しています。例えばスマホを持っていれば、Wi-Fiや携帯の電波が届く限りは、いつでもどこでも、誰とでもコネクトできます。つまり、ユビキタスというのは現代社会でほぼ実現してしまったわけです。
例えば私がパラオでスキューバダイビングしながらオンライン大学の講義をする、ということも可能な時代になったのです。
●摩擦のない世界“フリクションフリー”
それからもう一つ、多くの学者が当時言っていたのは、フリクションフリー(Friction-Free)です。フリクションフリーとは、インターネットを介在した経済においては、需要が増加すると価格が低下するなど、消費者にとって“摩擦やストレスのない経済”が成立する現象のことです。つまり、これまでリアルマーケットで生じていた、売り手と買い手の間の様々な摩擦やストレスが発生しないビジネスの仕組みが、ネット上では可能になるはず、という考え方です。
今では当たり前になったネットにおける無料のサービス提供などは、フリクションフリーの代表例です。ビル・ゲイツがソフトを売って儲けていたところに、グーグルが出てきて、「うちのサービスは全て無料です」と言い出した。世界中の情報をただで差し上げます、というわけです。
マイクロソフトは、なんでそんなことができるの? と思ったのですが、競争のモデルが違っていたのです。グーグルのほうは広告でものすごい収益を上げるというわけです。スマホの分野でも今iPhoneとAndroidが競っていますが、今のところ世界的に見るとAndroidの圧勝です。
ネットの世界というのは、ゲームなどもそうですが、ソニーや任天堂はまずゲーム機を買ってもらって、次にソフトを買ってもらう、というモデルでやってきたわけです。ところが、スマホゲームというのは基本的に無料です。最初は無料で利用でき、ユーザーが「いやー、このゲーム面白いな」と思ってハマってくると、今度はもうちょっと強力な有料キャラクターを買おうとなり、最終的にお金を払ってくれる。全ユーザーのうち2~3%がお金を払ってくれるユーザーなのです。
これがフリーミアムというビジネスモデルです。つまり、基本的なサービスや製品は無料で提供して、さらに高度な機能や特別な機能については課金する仕組みです。間口を非常に広くしておいて、何千万もの人に入ってきてもらって、納得した一部の人にお金を払ってもらう。これがフリクションフリーの世界です。
ネットの黎明期に学者たちが言っていたこの「ユビキタスとフリクションフリー」が今、実現してきています。したがって、有料でモノやサービスを売ってきた人たちは今、非常に困っています。従来の産業界というのは、まずコストベースで考えて、結果的に販売価格はいくらです、というようなことをやっていたわけです。そして売れば売るほどボリュームが増える、儲かる、と。
ところが、今ではボリュームを稼ぐためにまず無料で提供しておいて、お客さんをたくさん集めた上で、そのうちのいずれかのセグメントにお金を払ってもらう。つまり、このお金を払う人たちが、無料でサービスを受けている人たちのスポンサーになっているのです。こうなってくると、企業側にしてみたら誰がお客さんで誰が競争相手か分からなくなるわけです。
LINEのユーザーは今5億人以上いると言われています。5億人といえばすごい数ですから、企業側にしれみれば、その人たちを使ってどうやって儲けるか、ということをこれからゆっくり考えればいい。このような、従来と全く違うビジネスモデルが、ユビキタスとフリクションフリーによって出来上がりつつあるのです。
テクノロジーが変えた、出版&音楽産業と農業
●出版社に求められる“プロデュース機能”の強化
出版業界に関して、以前から私は「これからは、2大取次会社の日販(日本出版販売)とトーハンに依存していてはダメだ。ネット社会では、出版社の役割が変わってくる」と言ってきました。
ところが出版業界の人たちは「まあ、それは次の世代に任せますよ」などと言っていた。そんな時、アマゾンが何をやり始めたと思いますか? 映画や音楽のストリーミング配信と同じように、月々9ドル99セントで好きな本を読み放題、というサービスを始めたのです。そして、そのライブラリーには、なんと60万冊もの本があるのです。そんな数の本は、図書館に行ってもありません。
当然、「えっ、それじゃ我々出版社はどうしたらいいの?」ということになります。そこで一部の出版社がアマゾンに抵抗しましたが、アマゾンは出版社ごと買ってしまったり、出版社に残っている在庫を全部買ってしまう、ということをやり始めました。そうやって、アマゾンで売らざるを得ないように出版社を追い込んでいるのです。こうなると、出版社はもうアマゾンに追随するしかありません。ちなみにアマゾンは赤字にも拘わらず時価総額の高い珍しい会社です。赤字でも株価が上がっていく。その理由は後述します。
アマゾンの出現により、今出版社は、その存在意義と役割を改めて問い直されています。おそらくこれからの出版社は、よりクオリティーの高いコンテンツを作るプロデューサー機能の部分をさらに充実させていかなくてはならないでしょう。
●音楽はストリーミングの時代へ
音楽業界でも同じことが起こっています。スティーブ・ジョブズ時代のアップルがiPodを出した時、ダウンロードという新たなコンセプトで、「好きな曲だけ落として」と言いました。これに対してレコード会社側は一斉に抵抗したのですが、アップルはミック・ジャガーを個人的に口説いて、ザ・ローリング・ストーンズから始めて、やがて他のレコード会社も加わって、結局ソニーも渋々これに参入したのです。
今、そのアップルが、「これからはダウンロードじゃない、ストリーミングだ」と言い始めています。ストリーミングというのは、インターネットを通じて映像や音声などのデータを視聴する際に、データを受信しながら同時に再生を行う方式です。クラウドの方に、著作権協会から許可を得た膨大な数の楽曲があって、ユーザーは好きなときに好きな曲を落として聴けるのです。米国のパンドラ・メディアという会社が、このストリーミングサービスの先駆けです。今、時代はダウンロードからストリーミングに変わりつつあります。したがって、かつてダウンロードで世間を驚かせたアップルでさえも、ストリーミングモデルを取り込むために、ビーツというストリーミング会社を3000億円で買わざるを得なかったのです。
ストリーミングで音楽を聴いていると、「この曲を聴いている人はこんな曲も聴いていますよ」と、レコメンデーションが出てきます。映画もそうです。ネットフリックスやHuluなどで映画を観ていると「たぶんこんな作品も気に入ると思います」とレコメンドしてきます。そうすると、ついどんどん観てしまう。レコメンデーションにハマってしまうのです。
こうしたレコメンデーション機能を使って、自動車を運転している時、ボタンを押すだけで自分のお気に入りの曲が2時間でも3時間でもずっと流れてくるというサービスもあります。
今の世の中はユビキタスとフリクションフリーの世界です。DVDレンタルだと1枚借りていくら、そして何曜日までに返さなければいけない、というストレスが生じます。しかしネット上ではそういう心配はしなくていい。アマゾンもついに配送無料などのサービスを始めていますが、ネット社会では、全てのサービスがストレスフリー、フリクションフリーの方向へ動いているのです。
これは、言ってみれば大革命です。「そんなもの、自分の商売には関係ないよ」と言う人もいるかもしれませんが、現代社会でテクノロジーの影響を受けない産業はありません。あらゆる産業がテクノロジーの影響を受けている。あるいはこれから受けるはずです。
エスタブリッシュメント(既存企業)の人たちは、こうした変化からなんとか自分たちの会社を防衛しようとしているようですが、時すでに遅しです。周りはすっかり時代の波に乗った新興勢力に囲まれてしまっているといった状況です。
●「年商2500万円の農家」が生まれた理由
農業の分野でも、テクノロジーを駆使して先進的なことをやっている人が勝ち残っていくはずです。
オランダというのは今、欧州最大の農業輸出国です。オランダのような小さい国でも農業輸出大国になれるのです。彼らはICTを駆使して、まるで工場のような所で付加価値の高い農作物を作ります。
日本の農業はオランダに比べれば遅れていますが、日本の農業にも希望があります。例えば長野県川上村(※Keyword!)。ここの農家は平均年商2500万円と言われています。主にレタスを作っているのですが、ICTとケミストリーを非常に駆使しています。あらゆることにチャレンジして、非常においしいレタスを作っているのです。そういう所が千曲川の上流にあります。私もバイクでよく行きます。
安倍首相は、「子どもをもっと増やさないといけない。そうしないと消滅する地方都市がたくさん出る」などと言っていますが、川上村には、都会から若い女性がたくさん訪れます。それで年中お見合いをやっています。女性も農家の青年の年収を聞いて、「じゃあ私、ここに泊まるわ」ということになる。そうして結婚は増えるし、子どもはたくさん生まれるし、育児施設もたくさんあるし、と。これが正解なんです。要はお金なんです。そして、そのお金のもとがICTなのです。ここではICTを活用して、オランダにも負けないような農業をやっているのです。
このように、「テクノロジーの影響を受けない産業はない」ということを皆さんも念頭に置きながら、自分は、また自分の会社は今後どうしていけばいいのかを考えていただければと思います。
Keyword! : 川上村
長野県南佐久郡川上村は、千曲川(信濃川)の最上流部に位置する、人口約4760人(平成17年国勢調査より)の村。長野県内で唯一、埼玉県(秩父地方)と境を接する自治体で、村の一部は秩父多摩甲斐国立公園に指定されている。
村域全体が標高1000mを超える高冷地に位置し、川上村役場は標高1185m。役場や役所の所在地としては日本で最も標高が高い。
…続きは書籍版にてご覧ください!
0コメント